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『アヴァンギャルドとジェンダー』から『12ヶ月で学ぶ 現代アート入門』まで。2025年10月号ブックリスト

新着のアート本を紹介する『美術手帖』のBOOKコーナー。2025年10月号では、『アヴァンギャルドとジェンダー』から『12ヶ月で学ぶ 現代アート入門』まで、注目の8冊をお届けする。

文=中島水緒(美術批評)+青木識至(美術史学)

『アヴァンギャルドとジェンダー イタリア・ドイツ・ロシアの前衛芸術と文学』

西岡あかね=編
東京外国語大学出版会 3000円+税

 その急進性にもかかわらず、ホモソーシャルな保守性を帯びていたアヴァンギャルドの芸術運動。しかし、それでも、男/女という二項対立を批判的に転覆しようとする試みは確かに存在していた。本書は、イタリア、ドイツ、ロシアの歴史的アヴァンギャルドを対象に、ジェンダーをめぐる言説と表象を精緻に読み解く共同研究の成果である。人間存在に関わる根源的な問いとして、アヴァンギャルドの本質的な役割を担った女性たち。個別事例の蓄積を通じて、彼女たちの歴史を照らし出すとともに、男性側の歴史をも再検討する本書の意義は大きい。(青木)

『ザ・プレイ 流れの彼方』

橋本梓=著
水声社 3500円+税

 発砲スチロールのイカダで京都-大阪間の川を下る、12頭の羊と数日間一緒に歩く、山間に導雷針を付けた塔を建てて落雷をひたすら待つ。メンバー全員が一丸となって「行為」の遂行に挑んできた前衛芸術集団ザ・プレイ。無意味な遊戯にも映る彼らの活動は、1960年代から中断の期間を挟んで2000年代まで続いた。2016年にザ・プレイの回顧展を企画した著者が、メンバーへの聞き取り調査や資料研究を経て彼らの道程を詳述。行為の現場に立ち会うような、臨場感に満ちたザ・プレイ研究の決定版。(中島)

『かたちのつくりかた』

伊藤誠=著
武蔵野美術大学出版局 2500円+税

 彫刻家による「役に立たない使える本」という触れ込みの本書。各項目は五十音順に並べられ、著者が何かに触れた瞬間の感覚を写し取った、内省の記録となっている。道具箱や素材集のような本書が、結果として「かたち」そのものよりも、「つくりかた」の問題に接近している点は興味深い。意図せぬ寄り道のなかで、新たなつながりが生まれ、それが思いがけず「かたち」として立ち上がる。その道行きへの期待と信頼こそが、本書全体を貫く視点なのだろう。あとがきで著者が引用する「ブレーメンの音楽隊」の寓話もまた、その態度を象徴している。(青木)

『プサイの部屋 松澤宥アトリエ』

三上豊=編
せりか書房 3200円+税

 長野県下諏訪町に遺された松澤宥の私邸。かつて木造2階建ての古い家屋には、松澤が集めた日用品、写真資料、雑誌類、金属片、作品などを収容する「プサイの部屋」があった。現在はもぬけの殻である部屋の往年の様子を再現すべく、長沼宏昌写真やアーカイブ編集のために撮影された遺物の物撮りを集め、紙面で「アトリエ」を再構成。事物の集積には物々しい磁場が発生しており、本自体がまるで時空を超えて21世紀の受け手に届いた松澤の霊的メッセージであるかのようだ。(中島)

『スロー・ルッキング よく見るためのレッスン』

シャリー・ティシュマン=著
北垣憲仁、新藤浩伸=訳
東京大学出版会 4200円+税

 ゆっくり時間をかけて事物を観察すること。本書が勧める「スロー・ルッキング」は芸術鑑賞に限らず、多様な経験に応用可能な「見ること」の技法である。例えば海外の美術館で実際に行われたプログラムは、複数の参加者の記述を積み上げて主体の外にある気づきをもたらすというもの。こうした具体例に加えて、博物館史をひもといて連綿と受け継がれてきた「見ること」の歴史を紹介。幾度となく登場する「自分のために見る」という言葉が本書の最大の教育効果と言えるだろう。(中島)

『12ヶ月で学ぶ 現代アート入門』

山本浩貴=著
美術出版社 1800円+税

 ウェブ版「美術手帖」での連載を書籍化した一冊。新たに書き下ろしの2章とショート・インタビューが追加されている。トピックの偏りにはやや恣意的な印象も伴うが、それもまた時流を巧みに捉える著者の持ち味かもしれない。個別の作品よりも「現代アート」という言葉それ自体に迫ろうとする姿勢は、知的好奇心を刺激するいっぽうで、作品と向き合う身体的な経験にはなかなか接続しにくい。本書に安易な自己啓発の答えを見出すのか、それとも作品とのあいだに思索的な対話を立ち上げる存在へと変貌するのか。その行方は、読者自身の探究心に委ねられている。(青木)

『会田誠のスクラップブック』

会田誠=著
講談社 6300円+税

 2000年以降の活動を中心に、図版750点、自作解説6万5000字、テーマに合わせてセレクトされたツイート(現X)880件を収録した圧倒的ボリュームの作品集。編集を務めた久保恵子との協働のもと、時々で綴られた言葉の数々が盛り込まれ、その制作と日常から滲み出る信念に肉薄する。「みんなといっしょ」を掲げる会田誠の現在地を示す記録となっている。(編集部)

鈴木幹雄写真集『命の記憶─沖縄愛楽園1975』

沖縄愛楽園自治会=企画・監修
沖縄愛楽園交流会館=編集
赤々舎 5500円+税

 沖縄の「本土復帰」から3年ほど、当時25歳だった若き写真家は、国立ハンセン病療養所・沖縄愛楽園を訪れ、撮影を行った。それから50年、沖縄愛楽園自治会の企画・監修で一冊にまとめられた。最初の訪問から入所者の姿を正面から捉えるまでの逡巡と交流が日記とともに収められている。1974年12月から76年1月まで撮影日順に並んだ183点の写真は、後世の私たちに読み解かれていくことを待っている。(編集部)

『美術手帖』2025年10月号、「BOOK」より)

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場 -junction-

2025.12.12 - 2026.01.24
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馬喰町 - 清澄白河|東京