高木由利子「chaoscosmos vol.3 — visible viscosity 可視化された粘性 —」開幕レポート。写真は「見えない自然」をどう写すのか?【4/4ページ】

「実験室」としての展示空間

 興味深いのは、実験的なのが撮影だけにとどまらないことだ。高木は今回の展示について、「自然のなかで撮影したものと、スタジオを実験室のようにして撮影したものの両方がある」と説明する。そして「実験しながら何かを発見していく」という制作のあり方に呼応するように、展示空間そのものも一種のラボラトリーとして構成されている。

 作品は通常の写真用紙だけではなく、コンクリートやアルミニウム、ガラス、板など様々な素材へとプリントされ、漆喰など異なる質感を持つ素材も空間に入り込む。

ニスを施した作品

 蜘蛛の巣を写した一部の作品はアルミニウムにプリントし、その表面に手作業でニスを施したものだ。高木はニスを塗ることについて、「何かを封じ込める」ような感覚があると話す。写真に写された一瞬を、さらに物質のなかへ封じ込めるかのようでもある。

 さらに、ガラスにプリントした写真そのものを照明器具へと展開した作品もある。ガラス作品をどのように照らすかを考えるなかで、「それ自体が光をバウンスすればいいのではないか」と発想。色温度や明るさを変化させられる作品へと発展した。高木自身にとっても「今回の嬉しい発見」のひとつだという。

照明を施した作品群

 写真は何を「見る」ことができるのか

 高木は、自然界の美しい形には重力・慣性・粘性という三者のバランスが関係していることを知り、そこにカメラを介在させながら撮影を続けている。しかし、本展は物理現象を正しく解説する科学展示ではない。

 写真とは、目の前にあるものを記録する装置であると同時に、レンズ、シャッタースピード、被写界深度といった機構を介することで、人間の肉眼とは異なる時間や現象をとらえる装置でもある。高木自身、蜘蛛の巣を撮影しているとき、その完成した像を肉眼で見ていたわけではなかった。あるのは「何かすごいものが撮れるのではないか」という予感であり、その結果は写真になったあとに初めて現れた。

展示風景より

 高木は、肉眼では見えない、あるいは普段なら気づかずに通り過ぎてしまう自然現象のなかに、「magical」「mysterious」「miracle」という3つの“M”──「MMM」を見出す。そしてカメラというメカニズムを通じて受け取った、そうした自然からの「ささやかなメッセージ」を「chaoscosmos」と呼んできた。

 人間の目ではとらえられないものを、カメラを通して見る。そして写真として現れたものを前に、再び人間が世界を想像する。「visible viscosity」で起きているのは、自然を「説明する」ことではなく、世界にはまだ私たちが見ていないものがあると気づくことなのかもしれない。粘性をめぐる実験を通して、高木は写真というメディアそのものが持つ「発見する力」をあらためて浮かび上がらせている。

編集部