アンネ・イムホフ「House of Swans」(大館)開幕レポート。クラシック・バレエを取り込んだ新作パフォーマンス【3/3ページ】

約70分にわたる新作パフォーマンス

 開幕にあわせて披露された《House of Swans》(2026)のフルバージョンは約70分にわたる。そこでイムホフが扱うのは、完成された古典バレエの物語をそのまま再演することではない。クラシック・バレエに固有の身体の語彙を土台としながら、バレエの伝統性から離れた動作や姿勢、複数の身体の関係を重ねることで、ひとつの振付を立ち上げていく。

Anne Imhof《House of Swans》(2026) 撮影=編集部

 ときに身体は集団を形成し、ときにそこからひとりの身体が切り離される。踊る身体だけではなく、立ち止まること、姿勢を保つこと、床へと重心を落とすこと、別の身体に触れることもまた一連の動きのなかに置かれる。クラシック・バレエが長い訓練によって身体を統御する様式であることを背景に、その身体が規律に従う瞬間と、そこから外れていく瞬間とが同じ上演のなかに共存する。

 《House of Swans》の振付では、ひとりで完結する身体だけでなく、他者との接触によって成立する身体も繰り返し現れる。展示作品の《無題》(2025)では二者の身体がひとつの像として固定されている。いっぽうパフォーマンスでは、接近し、身体を預け、再び離れていく関係が、時間のなかで変化していく。親密さや依存、身体間の距離というモチーフは、展示とパフォーマンスの双方に見出すことができる。

Anne Imhof《House of Swans》(2026) 撮影=編集部

 音もまた、身体の運動と並ぶ重要な構成要素となる。ジェイコブ・マッデンによるスコアは、電子的なサウンドスケープから声、ピアノ、ドラム、ギターまでを横断し、ライブ演奏と録音された音源を重ねる。音が変化するにつれて、ダンサーの動きも一様なリズムには回収されず、群舞と個々の身体、静止と運動が交互に前景化していく。

Anne Imhof《House of Swans》(2026) 3/F small gallery, installation view, Tai Kwun Contemporary

 そして、《House of Swans》(2026)の背後には、『ジゼル』をはじめとするクラシック・バレエのイメージが断片的に存在している。展示される《Giselle 1》(2026)が恋愛の破綻を契機とする「狂乱の場」を参照するように、パフォーマンスでもまた、愛や欲望、個人の意思、他者や集団との関係が身体によって示される。ただしそれらは、古典作品の物語を忠実になぞるものではなく、既存のバレエが蓄積してきた身体と物語の形式を引き受けながら、それを別の文脈へと置き直す試みとして現れている。

 大館は、本展におけるパフォーマンスを「展覧会の、舞台美術に対するひとつの解釈」と説明している。絵画、彫刻、映像とパフォーマンスがひとつの物語へと収束するのではなく、身体、バレエ、親密さ、規律と自由、変容といったモチーフが、それぞれ異なる媒体のなかで反復される。展示とパフォーマンスの関係もまた、その複数の読みのなかに置かれていると言えるだろう。

 本展では、開幕週の約70分のパフォーマンスに続き、10月〜11月の指定日には香港バレエ団による約45分のアダプテッド版が上演される。