アンネ・イムホフ「House of Swans」(大館)開幕レポート。クラシック・バレエを取り込んだ新作パフォーマンス

香港の大館コンテンポラリー(Tai Kwun Contemporary)で、アンネ・イムホフのアジア初となる大規模個展「House of Swans」が開幕した。会期は9月25日〜2027年1月3日。新作の絵画や彫刻、映像、インスタレーションとともに、近年イムホフが関心を深めてきたクラシック・バレエを取り入れたパフォーマンス《House of Swans》(2026)を展開。香港バレエや国際的なダンサー、ミュージシャンとの協働を通して、身体の規律と自由、親密さ、変容といった主題に向き合う。

文・撮影=大原愛美(編集部)

Anne Imhof《House of Swans》(2026)live performance with dancers from Hong Kong Ballet, Tai Kwun Contemporary

 香港の大館コンテンポラリー(Tai Kwun Contemporary)で、アンネ・イムホフのアジア初となる大規模個展「House of Swans」が開幕した。会期は9月25日〜2027年1月3日。初公開となる新作を中心に、絵画、彫刻、映像、インスタレーション、音楽など複数のメディアを横断して構成される本展では、近年イムホフが関心を深めてきたクラシック・バレエも大きく前景化している。会期中には香港バレエとの協働によるパフォーマンス《House of Swans》(2026)も上演され、開幕にあわせて約70分のフルバージョンが披露された。

 イムホフは1978年ドイツ・ギーセン生まれ。パフォーマンスや振付のみならず、絵画、ドローイング、音楽、インスタレーション、彫刻、近年では映像へと実践を広げてきた。2017年には第57回ヴェネチア・ビエンナーレのドイツ館で《FAUST》(2017)を発表し、国別参加部門の金獅子賞を受賞。テート・モダン、パレ・ド・トーキョー、ステデリック美術館など各地の美術館で作品を発表してきた。

身体の存在と不在をめぐる作品群

 本展では、2025年にニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで発表された大規模なパフォーマンス・インスタレーション《DOOM: House of Hope》(2025)の映像とともに、新作の絵画やブロンズ彫刻、インスタレーションが展示されている。《DOOM: House of Hope》(2025)の映像にパフォーマーの身体が現れるいっぽう、新作絵画の一部では、イムホフ自身が画面を引っ掻く行為によって、その身体運動が痕跡として残されている。身体そのものと、それが去ったあとに残るものが、異なるメディアを通して提示される。

Anne Imhof《The Queen of the Swans》(2026)oil on canvas, 250 × 320 cm. © Anne Imhof. Courtesy Vincenzo and Claudia Rose De Cotiis, Milan.
Anne Imhof《Giselle 1》(2026) oil on canvas, 200 × 348 cm. © Anne Imhof. Courtesy the artist and Sprüth Magers.

 本展のタイトルにある「白鳥」やクラシック・バレエへの参照も、絵画のなかに現れる。《The Queen of the Swans》(2026)では、暗い画面に白鳥の姿と「I AM THE QUEEN OF THE SWANS」という文字が描かれる。いっぽう《Giselle 1》(2026)は、1841年にパリで初演されたクラシック・バレエ『ジゼル』を参照した作品だ。イムホフは恋人の裏切りを知ったジゼルが現実との接続を失っていく「狂乱の場(Mad Scene)」に着目し、破綻と変容が重なり合う場面として解釈したという。

Anne Imhof《Untitled》(2025)Bronze 85.5 × 59.5 × 7 cm © Anne Imhof Courtesy the artist and Sprüth Magers.

 また、抱き合う2人の人物を浮彫りにしたブロンズの《無題》(2025)では、身体の接触そのものが像として定着されている。寄り添い、支え、身体を預ける二者の関係は、後述するパフォーマンスにおいて身体同士が結ぶ関係とも緩やかに響き合う。

Anne Imhof《House of Swans》(2026) installation view 撮影=編集部

 香港という開催地に応答する要素もある。大きなガラスケースに収められているのは、香港のClear Water Bay Film Studio(清水湾電影製片廠)から回収された古いフィルムリールだ。同スタジオは、香港映画産業が拡大していく1950年代、長城電影製片有限公司(Great Wall Movie Enterprises)の制作拠点を拡充するために建設が計画された。香港電影資料館によれば、その設立は香港映画産業の新たな出発点のひとつとなり、以後、数多くの映画制作を支えてきたという。かつて俳優たちの演技を記録していたフィルムは、ここでは内容を映し出すのではなく、取り残された物質として姿を現す。隣接する映像作品《Citizen》(2025)とともに、大館はこれらを、歴史とフィクション、スペクタクルと廃墟、静止と潜在的な運動のあいだにあるものとして位置づけている。