移動と時間、変化する距離
「通過への抵抗」では鯨津朝子と國府理の活動を取り上げ、路上の機能のひとつである「移動」に伴って発生する知覚のあり方を再定義するような作品が紹介される。

ドイツ・ベルリンを拠点に活動する鯨津は、アナモルフォース(歪像法)によって作品を制作するアーティストだ。展示室の内外に配されたいくつもの線は、無秩序な文様のように見えるが、特定の点から見るとそれらの線がつながるように設計されている。この視点を探すために、鑑賞者は頭を上下に動かしながら展示室を移動することになり、また線がつながった瞬間にガラス窓や構造物が生んでいる距離が縮まっていくような経験を得ることになる。

國府(1970〜2014)の《自動車冷蔵庫》(1998)は、作家が実際に乗っていた自動車に冷却装置を取りつけ、冷蔵庫化した作品だ。國府は生鮮食品の腐敗までの時間を引き延ばす冷蔵庫の技術と、目的地まで移動時間を圧縮する自動車の技術を一体化させ、異なる時間を小さな赤い自動車のなかに閉じ込めた。本作品は修復士・田口かおりによるプロジェクトの主導のもと、鉄錆の除去や冷却装置の更新、霜取りの強化などを実施して修復されている。この修復により、亡き國府が30年近く前に提示した思考もまた、時間を超えて展示室に表れることとなった。
権力が恐れる広場の価値
「道か、広場か。」はChim↑Pom from Smappa!Group、山田脩二、迫川尚子、児玉房子の作品によって、都市において人が集まる場所である「広場」と、移動のための場所である「道」、それぞれに発生している権力について考える。

Chim↑Pom from Smappa!Groupが2017年に、台北の国立台湾美術館に長さ200メートルに及ぶ「道」をつくり、巨大インスタレーションとして発表した作品《道》(2017-18)。会場では建築模型や映像などで本作を紹介している。美術館前の公道から、美術館内部にまでアスファルトの道を造作した本作は、作品鑑賞のために限られた人のための閉じた場にならざるを得ない美術館に、路上という不特定多数が行き来する機能を持ち込むというダイナミックな発想により生まれた。

新宿駅西口広場が歴史的に「広場」から「通路」へと意味づけを変えられてきたことも、本セクションでは取り上げられている。1966年に建築家・板倉準三によって設計された西口広場は、69年、「新宿フォークゲリラ」と呼ばれたベトナム反戦運動を訴える若者たちにより、反戦ソングを歌い議論を交わす集会の場となった。しかし、警察との衝突が相次ぐようになり、行政はこの広場を「通路」と定義して集会をする人々を排除した。90年代にはこの「通路」に不況の煽りを受けた失業者が集まり、ダンボールハウスが立ち並ぶようになるが、それも不審火により消失した。現在、かつて広場だったこの場所は再開発で姿を消そうとしている。

会場では、山田による新宿フォークゲリラの活動を捉えた写真、追川によるダンボールハウスに住む人々の写真、そして児玉による現代のストリートに集う若者たちを写した作品が展示される。「広場」と「通路」のあいだを漂った新宿西口広場に集った人々の多様な姿が訴えてくるものは多い。



















