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「路上、お邪魔ですか?」(金沢21世紀美術館)開幕レポート。路上を美術館で語ること、だからこそ持ち帰ることができるもの【2/4ページ】

道路が媒介してきたものとは何か

 セクション「道路以後」には、高松市の道路標識、中村裕太、panpanyaが参加し、道路という制度の変化を辿る。

展覧会タイトルと現存日本最古とされる大正時代の道路標識

 展覧会タイトルが記された会場のエントランスには、香川県高松市にあった現存する日本最古の道路標識と言われる標識が展示されている。大正時代に標識の規格が初めて制定された時期のものであり、路上に公的なルールが課せられる近代的意識の誕生を象徴的に物語る。

中村裕太《電柱から見た生き物の世界》(2026)。実際に使用されていた木製の電信柱に看板と植木を備え付け、さらにチョウが寄ってくるパネルも付帯させることで、電柱をめぐる小さな環世界をつくり上げている

 文献調査やフィールドワークをもとに作品を制作してきた1983年生まれの中村は、美術館の中庭「光庭」で作品を展開。《電柱から見た生き物の世界》(2026)は、金沢市内で使用されていた木製の電柱を使用している。美術館の外部と連続性を持つように、電柱からは館外に向かって電線が伸びており、また電柱の下にはチョウが寄ってくる配色を持った小さなパネルが据えつけられた。電柱は街のどこにでもある生活インフラであるが、同時に看板の支持体でもあり、犬や猫のマーキングによる交流の場であり、草木が生えるグリーンスポットでもある。電柱とは、都市における様々なレイヤーを体現する存在であることが、中村の作品を通して気づかされる。なお、中村による金沢市白菊町界隈の路上観察ツアーも、ホテル・OMO5金沢片町とのコラボレーションで実施される。同ホテルのウェブサイトより申し込みことが可能だ。

panpanya《いつもの所で待ち合わせ》(初出:『岩波データサイエンス』Vol.6、17年6月号)。壁面いっぱいに拡大されたコマは、描き込みを細部まで観察できる

 漫画家・panpanyaは6コマのマンガを美術館の壁面に展開。登場人物2人が出会う様子が描かれているが、その背景には変わりゆく街の姿が緻密な描写で描かれている。通常の大きさを遥かに超えたサイズで展示されるコマに描かれた町並みは、マンガの時間表現と呼応して絶妙なノスタルジーが表出している。

路上観察学会とは何だったのか

 「路上の発見」のセクションでは、路上観察学会の活動を資料を通して紹介。1986年、『路上観察学入門』(筑摩書房)の刊行に合わせて発足した路上観察学会は、美術家・赤瀬川原平、建築家・藤森照信、編集者・松田哲夫、イラストレーター・南伸坊などが参加した集団だ。中心的な役割を担った赤瀬川は、72年にすでにこの「路上観察学」の源流となる「超芸術トマソン」という概念を発案している。例えば、昇った先の扉が消失している階段のように、街中にあるふと目を止めてしまう、意味を剥奪されて純粋な美的領域に到達している建築の付随する人工物や自然物などがこの名前で呼ばれる。この名付けによって、この「見立て」の作法が共有可能なものとなり、多くの人に受け継がれてきた。

「路上の発見」のセクションの展示風景。段上には昇ることができ、展示物を都市のように立体的に捉えられるよう工夫されている
路上観察学会のメンバーが撮影した街の気になるもの

 会場では40年にわたる路上観察学会の活動を知るための書籍、雑誌、写真、資料等が展示され、メンバーたちの個人の活動にも触れられている。ここで気がつくのは、その活動のアウトプットとしての紙媒体の豊かさだ。雑誌が文化をつくる先端であり、誰もがそれを読んでいた時代が路上観察学会の活動を支えていた。現代のインターネットの時代の速度と表現方法において、路上観察学会の活動の骨子がいかに継承され得るのか。そういった問いも喚起される。

編集部