バンコクに誕生した新たな「国際現代美術館」
バンコクに、タイ初となる国際現代美術館「Dib Bangkok(ディブ・バンコク)」が誕生した。
同館の構想は、タイを代表する実業家であった故ペッチ・オサタヌグラによって、約40年前に描かれたものだ。その遺志を継ぎ、構想を現実のものへと結実させたのが、息子であり同館のファウンディング・チェアマンを務めるプラット(チャン)・オサタヌグラである。2023年に父を亡くした後、チャンは中核となるチームを招集し、美術館を私的な夢から公共的な文化機関へと転換。グローバルな視座を備えた現代美術コレクションの拡充とともに、東南アジアにおける新たな国際的プラットフォームの構築を進めてきた。

美術館名の「Dib」は、タイ語で「生(なま)」「素材のまま」「飾り気のない真正な状態」を意味する言葉である。その精神は、館のミッション、建築、そしてプログラム全体に貫かれている。チャンは本館の理念について、「タイと世界をつなぐ“橋”となり、新たな観客を育てていくこと」を戦略的な目標に掲げると語る。
「現代美術は、映像のようにストリーミングで消費できるものではありません。実際にその場に足を運び、身体を通して体験することで、日常のリズムを揺さぶり、鑑賞者に問いを投げかける。その点に、現代美術の特別さがあるのだと思います」。

Dib Bangkokは、バンコク東部の伝統的な荷降ろしエリアに位置し、1980年代に建てられた倉庫建築を改修した施設である。設計を手がけたのは、WHY Architecture主宰の建築家クリパット・ヤントラサストと、タイを拠点とする建築設計事務所Architects 49(A49)。総面積約7000平米に及ぶ11の展示室をはじめ、1400平米の中庭、屋外彫刻庭園、特別イベント用のペントハウス空間などを備える。
展示空間は3層構成となっており、仏教における「悟り」の概念を着想源に、上階へと進むにつれて体験が深化していく設計がなされている。地上階は建物の産業的な記憶を留めたコンクリートの質感が支配し、第2層では、タイ華人建築に由来する格子窓を活かした、親密で内省的な雰囲気が立ち上がる。最上階にはトップライトを備えたホワイトキューブ空間が広がり、北側には鋸屋根を用いた象徴的な構造が採用された。

敷地内には、磁器モザイクタイルで覆われた円錐形の展示空間「チャペル」や、水盤に囲まれたアプローチ、独立したビストロと多目的スペースも配置されている。都市の喧騒と隣り合わせにありながら、館内に一歩足を踏み入れると、時間の流れが緩やかに変化する構成だ。

チャンは、Dib Bangkokが提示したい体験について、次のように語る。「バンコクの街は、渋滞、トゥクトゥク、騒音、匂い、ナイトライフと、つねに刺激に満ちています。でもDibに入ると、多くの人が自然と『少しペースが落ちる』と感じるはずです。この美術館は、タイに、バンコクに、そして訪れる人々への“贈り物”だと思っています。立ち止まり、呼吸を整え、ゆっくりと考えることができる場所であってほしい」。





































