そして会場は2階へと移動し、この階ではいよいよ家族に焦点を当てた内容が展開される。第4章「ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルが 売却した絵画」では、本展において大変重要な資料が展示されている。
とくに美術に縁があったわけではないヨーは、夫テオの死後に近現代美術について学び、受け継いだ膨大な数の作品を売却し始める。売却の背景には、フィンセント・ファン・ゴッホの評価を確立するという野心的な目的があった。
そんなヨーの動きを明らかにするのが、テオとヨーの会計簿である。日常的な収支のほかに、作品の売却についても記されている。該当作品の販売先や販売金額などを細かに記されたこの資料は、いうまでもなくファン・ゴッホ研究に大いに役立った貴重なものだ。会場には、実際に売却された作品3点が展覧されている。


最後の第5章は「コレクションの充実 作品収集」。本章では、フィンセント・ファン・ゴッホ財団のいまもなお拡充され続けているコレクションが紹介される。1980年代後半から1990年代前半にかけて、寄付や寄贈も受けながら、ときにはファン・ゴッホ作品が加わることもあった。
なかでも、フィンセント・ファン・ゴッホの手紙「傘を持つ老人の後ろ姿が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙」(1882)は必見。フィンセントがブリュッセルで出会った先輩画家であるファン・ラッパルトに宛てた手紙だが、保存の関係から実物が展示されることはめったにないため、今回の出品は大変貴重な機会である。

そして会場の最後には、巨大モニターを用いたイマーシブ・コーナーが設置されている。《花咲くアーモンドの枝》などのファン·ゴッホ美術館の代表作を高精細画像で投影するほか、3Dスキャンを行ってCGにした《ひまわり》(SOMPO美術館蔵)の映像も紹介されている。フィンセントの作品に没入するような感覚が味わえる。

また今回、本展の展覧会サポーター、音声ナビゲーターに俳優・松下洸平が就任した。自身も学生時代に油画を学んでいた松下は、人々を励ましたいという気持ちから制作を行ったフィンセントに対して、作品を通じて人としての強さも感じられるという。また音声ナビゲーションでは、フィンセントの手紙の朗読にも挑戦。フィンセントの気持ちを想像しながら読み上げたという音声ガイドにも注目してほしい。




















