マヤ・エリン・マスダ「Ecologies of Closeness 痛みが他者でなくなるとき」(山口情報芸術センター[YCAM])開幕レポート【3/4ページ】

既存の親族性をどうとらえ直すことができるのか

 加えて、本展では2点の新作映像作品が初公開されている。《皮膚の中の惑星/All Small Fragments of You》(2025)では、マスダとマスダのクィアパートナーの日常を映しながら、既存の「親族性」の在り方について問いを投げかけている。

 現在、マスダのパートナーは自らの意志で薬を服用しており、それは男性と女性のあいだにある自由な存在でありたいという思いがあるからだという。ここでは、身近な存在であるパートナーとともに、「家族とは何か」「DNAの継承とは何か」について考えを巡らせながら、男女という二元論で語られがちなこの問題ついて言及。さらに、それを越境していくために、“同じ惑星に存在し、同じ毒性に晒されている”といった共通点を持つ様々な存在──人間や動物から目に見えないバクテリアまで──と、どのように新たな関係性を築くことできるのかを考えるものとなっている。

展示風景より、《皮膚の中の惑星/All Small Fragments of You》

 もうひとつの新作は、福島第一原子力発電所に隣接するヒラメの養殖場で撮影された《証言者たち/Plastic Ocean》(2025)だ。東日本大震災以降は立入禁止区域となり使用されなくなったこの場所には、自生の植物に加えて、その後飛来した種子などによって新たな生態系が誕生しているのだという。本作では、その風景をクローズアップして撮影したものと人の身体の映像が重ねられている。

 会場に決められた順路はないが、この記事で紹介した順に作品を見ていくことで、それぞれの作品を相互補完的に解釈していくことができるだろう。

展示風景より、《証言者たち/Plastic Ocean》

編集部