マヤ・エリン・マスダ「Ecologies of Closeness 痛みが他者でなくなるとき」(山口情報芸術センター[YCAM])開幕レポート【2/4ページ】

テクノロジーと政治の狭間にある身体について問う

 太陽光の差し込む明るい部屋を横断するように展示されているのは、マスダによる過去作《Pour Your Body Out》(2023)。今回はYCAMの会場にあわせて、空間を大胆に活用しながら再構成されている。

展示風景より、《Pour Your Body Out》(2023-25)

 木枠のなかには、一見自然物のように見えるプラスチック材や発泡スチロールがラミネートされたもの、科学液に浸された花、人工皮膚が配置されており、さらに母乳に見立てられた白い液体が会場全体を巡るように流動している。

 「この木枠は寝そべる人の人体構造に見立てていますが、その形状はどこかシステマチックにも見えるかもしれません」(マスダ)。この作品の制作背景には、福島第一原子力発電所事故(2011)の際に命じられた動物の殺処分や、チェルノブイリ原子力発電所事故(1986)から30年あまり経って出てきた組織的な中絶の推奨の証言が存在しており、液体の循環や配置されたオブジェクトを通じて、テクノロジーの発展と政治の間にある生殖や身体の権利にスポットを当てている。

展示風景より、《Pour Your Body Out》(2023-25)
展示風景より、《Pour Your Body Out》(2023-25)
展示風景より、《Pour Your Body Out》(2023-25)。テクノロジーの発展によって変容する皮膚の現象を人工皮膚を用いて表現。マスダはこれを「惑星の痛み」と呼ぶ

編集部