ダミアン・ジャレと名和晃平が《MIRAGE [transitory]》で見せた新展開【2/3ページ】

 例えば、冒頭でランウェイさながらにポーズを取りながら舞台を行き交ったダンサーたちは、やがて客席に向かってせり出した半円形のステージで四肢を絡めあって円陣を組み、密林のラフレシアのように花弁を開いて呼吸しはじめる。またある場面では乳白色のスモークに包まれ、皮膚にまとわりつく霧のまにまに浮かびながら、顕微鏡の中の微生物のように蠢いていた。

《MIRAGE [transitory]》上演風景より

 クライマックスにさしかかると、彼らの身体は天井から降り注ぐグリッター(超高価な素材だそうだ)を浴びて金属質の皮膜に覆われ、よりいっそう異形の様相を見せる。さらに刮目させられたのは、メタリックな質感を帯びたダンサーの身体が、舞台中央に縦方向に組み上がり、屹立する偶像のようなトーテムを構築したシーンだ。天井高く積み重なり、複雑怪奇に編み込まれた8つの身体は境目を失い、キメラやヤドリギといったハイブリッドな生命体の誕生を想起させた。

《MIRAGE [transitory]》上演風景より
《MIRAGE [transitory]》上演風景より

 ジャレと名和は2013年に出会い、以来10年以上にわたり協働を重ねてきた。これまでの3部作《VESSEL》《Mist》《Planet [wanderer]》は、日本神話に記された3つの世界(黄泉、高天原、葦原中国)に着想を得て制作された。コロナ禍の中止を経て、ついに今年日本で上演が予定されている近作《Planet [wanderer]》では、ある惑星の荒涼とした大地に縛られながら懸命にさまよい出ようとする人々の姿を描いた。本作《MIRAGE [transitory]》は《Planet [wanderer]》に連なる新たなフェーズを示すもので、「神話」の先にある次の世界のヴィジョンを描くことに挑む。砂漠をさまよう人々がやがて自身の本質を探し求め、そこで見た儚い「幻覚」や「蜃気楼」の中に、未だ確信はなくとも微かな希望の光を見出そうとする姿を表現したという。

編集部

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