小西真奈「Wherever」に見る、画家のタッチの変遷【2/4ページ】

 展示は3章で構成される。第1章は「Gardens」。2023年から2024年にかけて描かれた油彩画を中心に、3つのスペースに分けて展示される。同じテーマやモチーフ、色やかたちの共通点などに着目した小西自身のアレンジで、作品同士がさまざまな関係を結びながら展開を見せる、色彩豊かな「空間絵画」が生まれた。2024年に描かれた《Water Fountain 1》から展示へと誘われる。

第1章「Gardens」展示風景より、左が《Water Fountain 1》(2024)
第1章「Gardens」展示風景より
第1章「Gardens」展示風景より
第1章「Gardens」展示風景より

 初期の作品では、2006年のVOCA展で大賞を受賞した「キンカザン」で宮城県の金華山に取材し、撮影したプリント写真をもとに描いたように、自然の造形が特徴的な景勝地に人物を配し、緻密に描き込むことで静寂に支配された異界を思わせる世界を生み出してきた。第1章「Gardens」に展示されている2022年から2024年にかけて描かれた作品を見ると、フリーハンドの線や絵具の滴りも目立ち、サイズも初期作品よりも小さくなったこともあり、より軽快で柔らかな光が感じられる。張り詰めた空気感というよりも、柔らかな空気に鑑賞者が融け込んでいけるような印象だ。

 キャンバスの下地が見えている部分があれば、即興的なストロークで生まれる効果をそのまま生かしたような描写もあり、緻密な画面づくり、筆致のコントロールを感じさせる初期作品から大きな変化を見せる。完成と未完成の関係を曖昧にしたまま、モチーフから感じた光や色のイメージをナマのままに画面に残したプロセスが感じられる。

第1章「Gardens」展示風景より

 作風が変化したふたつのターニングポイントがある。2010年に長男を出産し、自宅を離れて景勝地へと取材に赴けないばかりか、自分で好きなように時間を使って絵を描くことができなくなったこと。もうひとつが2020年のコロナ禍。やはり外出が制限され、住まいから近くの都立公園の温室や、武蔵野の河岸段丘の景色に目を向けるようになった。人物のポートレイト作品もあわせて展示されている理由を問われると「結局、モチーフとして好きなものを描いていれば楽しいんです」と画家。

 「ジェニファー・バートレットの画集がひとつのきっかけになったのですが、身近なプールを様々なタッチで、画角を変えながら描くことで、彼女は多様な表現を絵にしました。すごい場所に行かなくても面白い絵を描けるということが彼女の作品からわかったので、自分も身近で親密なモチーフに惹かれていきました。温室などの人工物の直線をフリーハンドで描き、その直線のリズムを手で表現することに楽しさを見出しました」。

第1章「Gardens」展示風景より
第1章「Gardens」展示風景より、左から《Cliff 1》(2024)、《Cliff 2》(2024)。風景の抽象化を進行させたかの印象を与えるこの2点は、久しぶりに身近なモチーフを離れて壮大な景色を描いた2024年夏の作品

編集部

Exhibition Ranking