「サエボーグ Enchanted Animals」(黒部市美術館)レポート。あなたはいつ人間になったのか【4/4ページ】

 展示室の最奥部には、壁面も床も黄色く塗られた空間がある。ここには糞便が積み上がり、幾匹ものハエが群がっている。さらにこの部屋には、天井から吊り下げられ、腹が割かれて内蔵が飛び出している豚もぶら下がる。

展示風景より

 この豚についてハンドアウトには「タロットカードのXIIをチェックしてみて」と書かれており、タロットの13番「吊るされた男」との関連性が示唆されている。豚に訪れたのは悲劇なのか、それとも安寧なのか。母豚とともに家畜として過ごした鑑賞者に問いがつきつけられる。

展示風景より

 ほかにも《Pigpen movie》(2016)、《Slauterhous》(2019)、《Soultopia》(2023)といったサエボーグの代表的な映像作品も、藁のソファーに横たわりながら見ることができる。この空間で動物としてどのように過ごすのか、それは鑑賞者に任せられている。

展示風景より

 展示室を出て動物の被り物を外したら、最後にいまいちど会場入口の鏡に写った自分の姿を見てほしい。そこにいるのは、果たして本展を訪れる前の、自律したあなたの姿だろうか。動物と人間の境目を揺るがすことで、鑑賞者一人ひとりの実存を問う展覧会だ。

編集部

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