こうした身体機能の喪失と、その喪失と向き合うことがいかなることなのか、という問いが本作《Gallop》では通底している。天井から袋が吊り下げられているが、その袋は突如床に叩きつけられ衝撃音を響かせる。床にはコンクリートとガラスに噴水のように水を浴びせつつ循環させる彫刻がおいてあり、さらにドアの奥には入ってきた観客の歩行の軌跡をカメラで捉えてモニターに映し出す暗い部屋が用意された。
こうした装置のいずれもが、谷中が作品の主題とする、周囲の環境や他者との関係といった、身体を定義する外部を表徴するものだといえる。谷中はベッドの上の弟と対峙したとき、自らのパフォーマンスの経験と照らしながら改めて身体について考えたという、身体に係る「重力」。あるいは、外部から取り込まれて身体の中を流れ、重力に従って落ちていく「水分」。さらに身体はつねに他者の「視線」によってラベリングされ、記録される。自分たちの身体の自律性はどこにあるのかを、本作は鑑賞者に問いかける。