青森・十和田の十和田市現代美術館のサテライト会場である「space」ほか3会場で、アーティスト・三野新の個展「外が静かになるまで」が開催されている。会期は12月17日まで。
三野新は、1987年福岡県生まれ。2017年東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。写真家/舞台作家として、土地や風景の歴史と人々の記憶を読み解いて戯曲を立ち上げ、身体的なパフォーマンスや写真・映像と組み合わせて表現してきた。近年の主な展覧会・公演に「クバへ/クバから」(ANB Tokyo、2021)、『うまく 落ちる練習』(京都芸術センター、2019)など。
三野は本展にあたって三沢市の米軍基地に関するリサーチを行い、戯曲 「外が静かになるまで」を書いたうえで、それをインスタレーションとして4つの会場で展開している。
戯曲の舞台はホテルの一室。擬人化された「ソファー」と「ベッド」と「飛行機」が登場する。外部からの騒音をものともせず眠ることができる「ベッド」、外部が静かになるまで眠ることができない「ソファー」、そして外部から内部に侵入してくる「飛行機」が会話劇を展開。各会場ではこの戯曲が様々なかたちでアウトプットされている。
ひとつめの会場となる「space」は十和田市現代美術館から徒歩約7分の場所に位置する同館の「サテライト会場」。このスペースはアーティスト 目[mé]が十和田市街の一軒家をホワイトキューブの空間へと改築した作品でもある。これまでに大岩雄典、青柳菜摘、筒 | tsu-tsu の個展を開催し、若手アーティストによる実験的な表現を紹介してきた。
三野はこの「space」で「ソファー」「ベッド」「飛行機」を現出させた。「ソファー」「ベッド」は写真を貼り合わせてつくられており、それらが置かれた空間に、外部の存在としての「飛行機」の声がこの空間に侵入してくる。三野が三沢にて制作した写真も、この上演を演出。甘いピントとラミネートによって、ぼんやりと霞んだようなこの写真は、見る者に対象との距離を意識させる。
当事者として作品をつくるということを意識したという三野。三沢をリサーチしながらも、その表現は米軍基地を抱えながら生きる日本人すべてを当事者としての射程にとらえる。リサーチで得たものを「つくる」という行為を通して開くことで、より普遍的な当事者をつくり出す本作。それは「space」の大きな窓によって十和田の街にも開かれている。鑑賞者は「ソファー」なのか「ベッド」なのか「飛行機」なのか、あるいはそれらの複合なのか。見る者の思考を喚起する代入可能性が、本作には散りばめられている。
街に向かって作品を開いていく三野の姿勢は、他会場の作品からも感じることができる。三野はビジネスホテルである「スーパーホテル十和田天然温泉」の朝食会場で、映像作品や写真、ネオン管による空間を構成した。戯曲に登場するホテルという存在が、実際のホテルの内部に侵入しているともいえるこの試みは、セーフスペースの内側と外側についての思考を喚起させる。
同様の試みはカフェを併設した市内のコミュニティスペース「14-54」でも展開。カフェのテーブルや壁に侵入した三野の作品は、この場所に集まる人々の価値観を揺さぶるはずだ。
美術館の屋外スペース「アート広場」にも作品が展示されている。戯曲の一節が流れる電光掲示板、写真、蛍光色のネットを組み合わせたこのインスタレーションは、フィクションと現実のあわいを感じられる場所だ。
訪れた一人ひとりの物語に、米軍基地から得た内と外についての思考を組み込んでいく作品群となっている。