展覧会は、最初の展示室をすべて使った作品《Gallop》(2022/24)から始まる。本作は、もともとパフォーマンスとして考案された同名の作品を本展のためにインスタレーションとしたもので、複合的な要素によって成り立っている。
本作はもともと、谷中の弟が事故で障害を負ったことをきっかけに構想されたものだ。展示室の入口には作品の一部として、モニターの置かれた机と縄がくくりつけられたイスが置かれている。モニターに映し出されているのは谷中が弟から借り受けた映像で、彼がベッドに寝ながら撮影した介護士の顔が映されている。谷中の弟はこの映像を次のような言葉とともに谷中に手渡した。
これは両手両足縛って見て欲しいやつ
手は後ろで
会場のイスに括られた縄は、鑑賞者が自らの手足を縛るためのものであり、実際に鑑賞者が手足を縛ったとしたら、手足が動かせない状態で介護士を見上げる、谷中の弟と同じ状態になるということが想像される。いっぽうで、谷中はこうした行為を実行したとして「映像を見る人の経験は弟と同じになることはないし、近くなることもないと思う」と語る。このメッセージを受け取った谷中は、弟に対していかなるフィードバックをするべきだったのか、いまも考え続けているという。