第1章「福田平八郎」では、初期から晩年までの平八郎の作品を展示するとともに、平八郎が琳派からいかに影響を受けたのかにも迫る。例えば《春》(1925頃、大正時代)では、ツバメたちが止まっている石が浮かぶ水面には、尾形光琳の作に見られる光琳紋を思わせる文様が浮かぶ。
《桐双雀》(1942、昭和時代)にも、琳派からの連続性を見出すことができる。桐の木の枝に雀が2羽止まっている本作だが、右端の桐の花は見切れているように描かれている。こうした構図も琳派が多用したもので、モチーフの画面外への広がりを想起させる。
福田の作品の変遷を見ることができるのも本章の楽しみだ。大正期の福田の最高傑作とされる《牡丹》(1924、大正時代)は、その牡丹の花びらの微細なフォルムまで写し取ろうとした高い描写力を、迫力ある構図とともに感じられる屏風絵だ。
いっぽうで平八郎はポール・ゴーガンをはじめとした近代の西洋絵画を愛し、自身の作品にもそのエッセンスを取り入れた作品を残している。《花菖蒲》(1957、昭和時代)は、尾形光琳の《燕子花図》(江戸時代)を意識しつつも、菖蒲の花弁はポスト印象派の作品を思わせるような大胆な厚塗りで、立体感を強調している。岩絵具を使いながらも、まるで油彩のような質感を出しており、平八郎の手数の多さを感じさせる。