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「浮世絵お化け屋敷」(太田記念美術館)開幕レポート。不気味な幽霊からユーモアあふれる異形の存在まで

東京・神宮前の太田記念美術館で「浮世絵お化け屋敷」展がスタートした。会期は9月29日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《見立三十六歌撰之内 藤原敏行朝臣 累の亡魂》(1852)

 東京・神宮前の太田記念美術館で「浮世絵お化け屋敷」展がスタートした。前後期の開催で、前期は9月1日まで。後期は9月6日〜29日(前後期で全点展示替え)。担当学芸員は日野原健司(同館主席学芸員)。

 同館では、2017年の「月岡芳年 妖怪大図鑑」をはじめ、定期的に幽霊やお化けを題材とする夏ならではの展覧会を開催してきた。本展では、歌川国芳、そして月岡芳年や歌川国貞といった歌川派の人気浮世絵師による作品を前後期合わせて174点展示(前期は87点)。おどろおどろしい妖怪や幽霊から、ユーモアあふれる謎のお化けたちまで多様な作品が一堂に会する機会となっている。

 また、今回展示される作品の約2割が近年新たに収蔵されたもの。同館によく足を運ばれるかたでも、初めて目にする作品も数多くあるのではないだろうか。

展示風景より、歌川芳員《将軍太郎良門蟇ノ術ヲ以て相馬の内裏を顕し亡父の栄花を見せ父のあだをほふぜんと士卒をはけまし軍評定の図》(1852)

 展示タイトルに「お化け屋敷」とあるように、会場では怪しげなお屋敷が描かれた浮世絵から展示がスタートしている。絵が示すストーリーのみでも十分におもしろいが、絵師によって工夫された構図、そして幽霊やお化けならではの細やかな描写にも注目してみてほしい。

展示風景より、歌川国貞(三代豊国)《見立三十六歌撰之内 藤原敏行朝臣 累の亡魂》(1852)
展示風景より、歌川国芳《四代目市川小団次の浅倉当吾亡霊》(1851)。歌舞伎役者を描いた作品だが、青白い肌に浮き上がる肋骨、抜け落ちた髪、そして下半身が半透明といった、幽霊ならではの表現にも注目したい

 また、歌舞伎でも人気の演目のひとつである『東海道四谷怪談』のワンシーンを描いた《形見草四谷怪談》には、早替わりの場面で行われる「戸板返し」を紙面上で表現するなど、独自の工夫も施されている。

展示風景より、豊原国周《形見草四谷怪談》(1884)
展示風景より、豊原国周《形見草四谷怪談》(1884)

 国芳をはじめとする絵師らが好んでよく描いたという画題のひとつが、大物浦(だいもつのうら)で義経に襲いかかる平家の亡霊たちだ。歌川芳員の《大物浦難風之図》では、義経一行を乗せた船に覆い被さる大波がよく見ると髑髏の顔のように描かれている。壇ノ浦で命を落とした平知盛の亡霊も波の上には描かれている。

展示風景より、歌川芳員《大物浦難風之図》(1860)

 幽霊やお化けのほかにも、会場では鬼や狐、土蜘蛛、河童、鵺といった、異形の存在も数多く紹介されている。同じ画題でも、絵師の技術や時代によって描き方が変化しているのを比較するのもおもしろいだろう。

展示風景より
展示風景より、左から月岡芳年《美談武者八景 戸隠の晴嵐》(1868)、《大日本名将鑑 平維茂》(1879)。同じ画題をふたつの角度から描いた芳年の作品だ
展示風景より、歌川国芳《源頼光公舘土蜘作妖怪図》(1842-43)。土蜘蛛の討伐に向かった源頼光の部下たちを襲う妖怪たち。この絵が刷られた当時は天保の改革で庶民が倹約を強いられており、その状況を風刺しているのではないかという噂も流れたという

 ほかにも、昨今話題となったゲーム『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』の元ネタとも言える「本所七不思議」をテーマとしたシリーズ作品も展示されているため、この機会にぜひ足を運んでほしい。

展示風景より、三代歌川国輝《本所七不思議之内 置行堀》(1888)

編集部

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