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「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(東京国立博物館)開幕レポート。「生」をめぐる往還

「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに、根源的な生の光景を出現させてきたアーティスト・内藤礼。その個展「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が、上野の東京国立博物館で始まった。会期は9月23日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

本館特別5室の展示風景より

 「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに、根源的な生の光景を出現させてきたアーティスト・内藤礼。その個展「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が、上野の東京国立博物館で始まった。本展はエルメス財団との共同企画。担当研究員は鬼頭智美。会期は9月23日まで。

 内藤礼は1961年広島県生まれ。現在は東京を拠点に活動している。空気、水、重力といった自然がもたらす事象を通して「地上の生の光景」を見出す空間作品を生み出してきた。近年の大型個展としては、「明るい地上には あなたの姿が見える」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2018年)「うつしあう創造」(金沢21世紀美術館、2020年)、「breath」(ミュンヘン州立版画素描館、2023年)などがある。また《このことを》(家プロジェクト きんざ、ベネッセアートサイト直島)、《母型》(豊島美術館)が恒久設置作品として知られる。

 本展は、鬼頭が2年前に内藤を東博の考古展示室に案内したことがきっかけとなり開催に至ったもの。平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジの3ヶ所が会場となり、それらをぐるりと回るように鑑賞する形式がとられている。

平成館企画展示室の展示風景より

 内藤は本展にあたり、東博が所蔵する約12万件の収蔵品のなかから、「注文主など作り手以外の意図が制作に大きく関与するようになる以前につくられた縄文時代の土製品」を選択。東博の建築や歴史を独自の視点で読み解き、空間作品を制作した。

 第1会場となる平成館企画展示室は、ガラスの展示ケース内のみならず、空間全体に作品が配置されている。展示ケースの中には、本展の作品と構成の始まりとなった縄文時代の《土版》(紀元前2000〜400)が展示。これと対を成す位置には、内藤の《死者のための枕》(2023)が本展の終点を示すように置かれている。

平成館企画展示室の展示風景より、《土版》(紀元前2000〜400)
平成館企画展示室の展示風景より、内藤礼《死者のための枕》(2023)

 第2会場となる本館特別5室では、長年閉ざされていた大開口の鎧戸が開放された。カーペットと仮設壁が取り払われ、出現した建築当初の裸の空間。自然光で満たされた場の中心には、重要文化財の《足形付土製品》(紀元前2000〜1000)が置かれ、はるか昔の人間の生の痕跡を感じることができる。

本館特別5室の展示風景より

 また、両脇の壁面には内藤による絵画の連作「color beginning/breath」が並ぶ。これらは2023年12月から24年5月までに描かれた「風景」だ。9月7日より銀座メゾンエルメス フォーラムにおいて開催される同名展覧会(〜25年1月13日)の空間でも同シリーズが展示され、東博から銀座メゾンエルメス フォーラムへつながり、再び東博へと戻るというこれまでにない構成となる。

 第3会場となるのは本館ラウンジ。ここに佇むのはガラス瓶に水を充した《母型》(2024/2022)だ。同作は生と死の往還を示すものであり、膨大な生と死によってつむがれてきた歴史そのもの、さらには博物館という場所そのものを示す象徴的な作品だと言える。

本館ラウンジ展示風景より、内藤礼《母型》(2024/2022)

 ぐるぐると廻るような順路は、「生の行きと帰り」(内藤)に重なるようだ。いまここにある生、すでに行ってしまった生、これから行く生。これらについて、静かに思いを巡らせたい。

編集部

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