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自然光で見る内藤礼の世界。水戸芸術館で過去最大規模の展覧会「内藤 礼―明るい地上には あなたの姿が見える」がスタート

「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに、光、空気、風、水、重力などを用いた作品を制作してきた内藤礼。その内藤が制作の根源のひとつとしてきた「光」のアプローチの境地となる、過去最大規模の個展が7月28日より水戸芸術館現代美術ギャラリーでスタート。展覧会の様子を作家の言葉とあわせて紹介する。

展示風景より

 光、空気、風、水、重力など、自然の要素を取り入れた空間作品で高い評価を得てきた内藤礼。自身過去最大規模の展覧会「内藤 礼―明るい地上には あなたの姿が見える」が7月28日より水戸芸術館現代美術ギャラリーでスタートする。

 ある日、夕焼けを見るためにベランダへと足を進めた内藤は、ふと気配を感じて部屋を振り返ったとき、これまでの人生の走馬灯を見た。そして、その体験をきっかけに、水や空気、光そのものを用いた個展「すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」(神奈川県立近代美術館 鎌倉、2009)を開催。そこから約10年を経た本展で、内藤は光のアプローチの境地を見せる。

会場入口

 8の部屋から構成される会場は、地上の「生の内」を表す部屋、そして、生前や死後、精霊などの「生の外」を表す部屋、そのどちらとも言える部屋の3つに分けられる。

 そんな本展の大きな要素となるのが自然光の存在だ。太陽の光が自室に注ぎ込むあいだのみ制作に取り組むという内藤は、本展においても、自然光のみで展示を行う初の試みを見せている。

第1室の様子
第1室を貫くように置かれた台。水が張られており、息を吹きかけることができる

​ 「生の内」とは、いま私たちが生きている世界と、人々のこと。天窓のある第1室に置かれたガラスビーズの作品は、「生の内」を形づくる柔らかな光のなかで鑑賞できる。

 本展には多くの人型の彫刻が登場するが、これらは「生の外側にいる人」を象徴する。生の中に死が、死の中にも生があり、それらが眼差しを送りあっていることを示すという。そうした一対一の関係性は、向かい合う鏡や水の入った瓶といったモチーフでも見られる。

展示風景より
展示風景より

 絵画シリーズ「color beginning」は、内藤が「絵画というものは完成後、固定していると思われるかもしれませんが、それが本当の姿だと言える確証はない」と話すように、自然光の中で色彩の移ろいや神秘的な表情を見せる作品だ。また同時に「絵画を描くとき、色と光が一緒になってこちらに働きかけようとしていることに気づいた」と作家が言い表す、「生成の絵」でもある。​

展示風景より。「color beginning」が並ぶ一室
展示風景より。細長い「生の外」

​ 続いて廊下のように長細い展示室へと足を踏み入れると、ぐっと光量が下がることが感じられる。ここからは、内藤の言う地上の「生の外」にあたるパートだ。この「外」からは光に満ちる「内」を見渡すこともでき、生の内と外は分かつことなく両方からその眼差しの働きかけが行われていることを、隣室からグラデーションのように緩やかな光が差し込むこの部屋は伝える。

展示風景より。「生の外」から「生の内」を眺める様子

 「準備中、この部屋から明るい部屋を眺めていたら、自然と“明るいところに行きたい”と思った。地上に生きる私たちは太陽の光から物理的・精神的に大きなものを受け取っていることを感じました」と内藤は話す。

 また床に置かれた2つの瓶は、外と内、異なる世界にいるもの同士が、自らの水を互いに注ぎ合おうとしていることを意味する。

展示風景より。右側に見える円状のものに小さく「おいで」と書かれている

 そして最後の部屋は、「生の内」と「生の外」のどちらとも言える場所。様々なオブジェが点在するこの部屋の床には、小さく「おいで」と書かれた白い紙が積まれている。この「おいで」は、新生児が必要とし、これを持ち続けること=生を意味し、世を去るときに手放すというもの。内藤のコンセプトにある「祝福」の一端でもあると言える、この「おいで」の紙を、鑑賞者は自由に持ち帰ることができる。

展示風景より

 こうして最後の空間を鑑賞した後は、ふたたび「生の外」、そして「生の内」へと、これまでの道を巻き戻すように移動し、出口(入口)へとたどり着く。

 「私にとっての作品は自己表現でも、考えを知ってほしいということでもない。私自身も作品を通して感じ、考えてきたいです」と言い、「明日には、私は作品に対して違うことを見出しているかもしれません」と続けた内藤。絶えず移ろい、行き来し、分別することのできない事象。交わりあう「内」と「外」について、自然光の中でゆっくりと思索できる旅のような展覧会だ。

編集部

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