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アニッシュ・カプーアの作品を通して見る現代の監視社会。GYRE GALLERYで個展

シンプルなフォルムのなかに深い精神性を表す作品で知られている現代アーティスト、アニッシュ・カプーアの個展「アニッシュ・カプーア_奪われた自由への眼差し_監視社会の未来」がスタート。その様子をレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より

 インド文明とヨーロッパのモダニズムを融合させ、シンプルなフォルムのなかに深い精神性を表す作品で知られている国際的な現代アーティスト、アニッシュ・カプーア。その個展「アニッシュ・カプーア_奪われた自由への眼差し_監視社会の未来」が、東京・神宮前のGYRE GALLERYで始まった。会期は2024年1月28日まで。

 カプーアは1954年インド・ムンバイ生まれ。1972年にロンドンに拠点を移し、現在は同地を拠点に国際的に活動。90年にはヴェネチア・ビエンナーレにイギリス館代表として出展し、翌年にイギリスの現代美術賞であるターナー賞を受賞するなど脚光を浴び始める。これまでロイヤル・アカデミー(ロンドン、2009)、ヴェルサイユ宮殿(パリ、2015)、紫禁城(北京、2019)などで個展を開催し、大きな反響を呼んでいる。

 ひとつの作品に二重の意味合いを込めた「両義性の作家」とも評されているカプーア。本展の企画者である飯田高誉は開幕にあたり、「カプーアは本展に対する言葉としてのメッセージはない」としながら、次のように述べている。「戦争が起こったりグローバリゼーションが済んだり、世界がどんどん変わっていっている状況のなかで、カプーアは人間存在そのものに焦点を当てて作品をつくりたいと考えている。本展を皆さんの主体的な考え方に基づいて見ていただきたい」。

展示風景より

 展覧会では、カオティックな状態を表す、赤い色の顔料を大量に使用した2021〜22年の絵画作品と、カプーアが来日したスタッフに遠隔指示して制作した巨大な立体作品が展示されている。

展示風景より

 こうした展示構成について、飯田は次のように話している。「カプーアのスタジオに行くと、彼は非常にカオスに満ちた状況のなかで作品をつくっている。スタジオはアーティストにとって重要な拠点であり、美術館での展覧会の準備のときにはシミュレーションしていたりする。そのシミュレーションの現場が非常に面白い。つまり、整理されていない状況のなかで作品を見ることができる。今回は、そういった雰囲気をここでもつくりたかった」。

展示風景より

 会場の床に置かれた巨大な立体作品は、視覚的に強いインパクトを与えている。暗い赤を基調にしたこれらの作品は、切り刻まれた肉塊や内臓をも連想させ、一部の作品を取り囲む壁には暗い赤色の顔料も飛び散っている。本展のタイトルにある「監視社会」と展示作品との関係性について飯田に尋ねると、次のような返答が得られた。

 「管理化された社会では、当局が我々を監視しているいっぽうで、我々もSNSを使って監視者になって相互監視している。カプーアは、人間の精神の底流に地下水のように流れていて、割り切れないカオスを作品化している。監視社会において私たちが目に見えない網の目のように張り巡らされているものや閉じ込められているような感覚を、私はカプーアの作品のなかで非常に感じている。つまり、その作品は鏡のように、我々がいまどのような状況に置かれているのかということを映し出してくれるのだ」。

展示風景より

編集部

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