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「分断」をポジティブにとらえ、受容する。新たに始まった「山梨国際芸術祭」が示すものとは?

山梨県北杜市の新たな芸術祭「山梨国際芸術祭 八ヶ岳アート・エコロジー 2023」が12月20日まで開催中。「ゼノジェンダー」をテーマに、地域の自然環境と融和する作品や表現が展開されている。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、吉野祥太郎《Strata of Time -時間の地層-》

 山梨県北杜市の新たな芸術祭「山梨国際芸術祭 八ヶ岳アート・エコロジー 2023」が清春芸術村、中村キース・ヘリング美術館、身曾岐神社、GASBON METABOLISMの4拠点を会場に12月20日まで開催中だ。総合ディレクターは、吉井仁実(アートディレクター、清春芸術村理事長)。

 同芸術祭のテーマは「ゼノジェンダー(男女に限らず非生物や動植物などとの関係性を性別に取り込む思想)」。八ヶ岳・南アルプス・金峰山に囲まれ、フォッサマグナによる日本列島の大きな分断に位置するこの土地を舞台に、地域の自然環境と融和する作品や表現を展開。来場者の思考や属性を解放することを目指すものとなっている。

 参加作家は石川直樹、泉太郎、磯崎隼士、磯村暖、Gustave Eiffel、落合陽一、加々見太地、SIDE CORE、EVERYDAY HOLIDAY SQUAD、Ossip Zadkine、SCAN THE WORLD、César、高田冬彦、宮原嵩広、村田美沙、山田リサ子 、吉野祥太郎、YOSHIROTTEN、脇田玲、渡辺志桜里+永山祐子、Keith Haring。今回はプレビューで鑑賞することができた、清春芸術村での展示作品から数点を紹介する。

 現代アーティストの泉太郎は、人智を超えた物事と人との関係性を交感し続けるようなシステムを構想し、「巨人と玩具」シリーズを村内に展開している。例えば、村内にあるアーティストのための創作の場「ラ・リューシュ」の周りには、あるルールをもとにレンガの上に石のかけら(オストラコン)が置かれている。これは、芸術村のスタッフが連日見る夢に関するシステムが可視化されたものであり、エジプトにある古代の埋葬地でとある書記官によって行われた「夢のオストラカ(夢日記を陶片に記した)」のストーリーに由来するものだ。

展示風景より、泉太郎「巨人と玩具」シリーズ《ホル達のオストラコン》
展示風景より、泉太郎「巨人と玩具」シリーズ《ホル達のオストラコン》

 村を囲むように植えられている桜の木に使用されている木製の支えを逆さまにつくった《逆頬杖 / 逆さ鳥居》では、用途を逆さにしたことで、伸びる枝の方向も逆さのではないか、といった意図と力学の考え方を組み直す実験的なアプローチが行われている。なお、この支えが役割を終えたときは、それを讃える記念碑がつくられる予定だという。

展示風景より、泉太郎「巨人と玩具」シリーズ《逆頬杖/逆さ鳥居》

 村内にある清春白樺美術館では、現代美術家・脇田玲と美術家で映像作家の高田冬彦による作品が展示されている。脇田によるインスタレーション作品《us》は、地球温暖化や生物多様性に対する過度な人間中心的な考え方に対する疑問を背景に、生きた微生物の集合体である人間の「個」のありかを問うものとなっている。

展示風景より、脇田玲《us》

 高田は新作を含めた4つの映像作品《VENUS ANAL TRAP》(2012)《Afternoon of a Faun》(2015-16)《Draem Catcher》(2018)《The Butterfly Dream》(2022)を展示。神話や性、ジェンダー、ナルシシズムなどの人間ならではのテーマを、現代の社会問題と対峙させながらユーモラスに表現している。同館の螺旋構造を生かした展示方法は、ループするような鑑賞体験が創出され、見る者を独自の世界観に引き込んでいた。

展示風景より、高田冬彦《Afternoon of a Faun》(2015-16)《The Butterfly Dream》(2022)
展示風景より、高田冬彦《VENUS ANAL TRAP》(2012)《Draem Catcher》(2018)

 ジョルジュ・ルオーを記念して建てられたルオー礼拝堂の内部では、アーティストの吉野祥太郎による、北杜市の地層を「持ち上げた」インスタレーションが展示されている。普段は埋まっている地層を地上に出現させることで、その土地の過去や記憶を見るという行為を鑑賞者に促している。

展示風景より、吉野祥太郎《Strata of Time -時間の地層-》

 SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUADによる《rode work(metabolism)》は、夜間工事用の照明機材を使用して制作された、シャンデリアのようにも見える立体作品だ。暗くなるとライトが点滅するが、そのライトは福島県から発信される時計の標準電波により管理されており、東日本一帯でその点滅がシンクロするように設計されている。この照明は壊れても差し替えてまた使用できることから、都市を抽象化したような作品であるとも言えるだろう。

展示風景より、SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD《rode work(metabolism)》

 メディア・アーティストの落合陽一は、安藤忠雄 / 光の美術館内にて《ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続》を展示している。LEDディスプレイで示される計算機自然と、あわせ鏡のように設置される新作の有機的な変形ミラー。これらは互いに共鳴しつつも、「論理性と無常性」「柔軟性と流動性」といった対比的な存在でもあり、鑑賞者はその狭間で感じられる作品同士の共鳴を体感することができるだろう。

展示風景より、落合陽一《ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続》

 アーティスト・渡辺志桜里と建築家・永山祐子のタッグは、この清春芸術村において100年スケールのプロジェクトに挑戦する。村の裏山で実施される《Farmed Nature》は、特定の土地を土壌ごと建造物で囲い、半永久的なファーミングを行うというものだ。初年度となる今年はそのイメージボードや小規模な実験が公開されており、建造物の着工は来年を予定しているという。

展示風景より、渡辺志桜里+永山祐子《Reference of Farmed Nature》
展示風景より、渡辺志桜里+永山祐子《Reference of Farmed Nature》

 同芸術祭ではほかにも、中村キース・ヘリング美術館、GASBON METABOLISMといった拠点でも、「ゼノジェンダー」をテーマに様々な作品による展示が行われているため、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

編集部

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