「WDO 世界デザイン会議 東京2023」が10月27日より3日間の会期をスタートさせた(一般公開は27日、28日)。日本での開催はじつに34年ぶりとなる。
「WDO 世界デザイン会議」はデザイン分野の国際組織である「World Design Organization(以下、WDO)」が主催する国際カンファレンスだ。世界各地のデザイン関係者に加えて、エコロジー、コミュニケーション、サイエンス、テクノロジーなどの幅広い領域を担う関係者が集結。デザインの新たな役割や可能性をめぐりクロスオーバーした議論展開を行っている。
2023年のテーマは「DESIGN BEYOND(デザインの向こう側)」。テーマに基づくプログラムは「Humanity - 新たな人間像からデザインを考える」「Planet - 環境問題ソリューションからデザインを考える」「Technology - DX からデザインを考える」「Policy - デザイン政策のこれからを考える」の4つがメインとなる。
初日には、デザイン研究と教育に関するフォーラムが東京都墨田区にある千葉大学 デザイン・リサーチ・インスティテュートを会場に実施された。WDO会長であるデビッド・クスマと東京2023 実行委員長の田中一雄は、ともに「イノベーションにあわせたデザイン教育の進化」や「AIとどのような未来を築いていくか」ということの重要性を挨拶のなかで説いた。
「デザインとは何か」。アイセ・バーセルと、ジャン・リウによる基調講演
今日において「デザイン」という言葉は多様なシーンで使用され、その意味合いは複雑性を帯びてきている。それに伴い、「デザインとは何か」という問いは、いまやデザイナーらにとって重要な論点でもあるのだ。
オープニングの基調講演では、トルコ出身でニューヨークを拠点に活動する工業デザイナーで、Birsel + Seck共同創業者であるアイセ・バーセルと、中国・北京の清華大学建築学院副院長・教授のジャン・リウが登壇。バーセルは自身が修得した「柔道」に例え、「デザインはフェイント(良い意味で自分をうまく騙すもの)」であり、様々な偏見から解き放つ力があるものだと語った。
いっぽうで、都市計画など設計士としてのキャリアを持つリウは、中国の都市化に至る流れとその計画について具体例を挙げたうえで、「目に見える美しいものをつくるだけではない、考え方やテーマを設定するのもデザイン」であると語った。
「人類のためのデザイン」「人間中心の技術デザイン」「地球のためのデザイン」。3つのテーマからなる論文発表
基調講演のあとは、各国の代表者による論文発表が「Design for Humanity(人間性のためのデザイン)」「Design for Human-Centred Technology(人間中心の技術デザイン)」「Behavioural Design for Planet(地球のためのデザイン)」といった、3つテーマごとにそれぞれの会場で実施された。
例えば、「Design for Humanity(人間性のためのデザイン)」の会場では、インドの伝統工芸であるプルカリ刺繍を現代の生活空間に接続することで、そこに新たな一面を生み出すことに加え、女性職人らのアイデンティティの確立とコミュニティ化を促す提案があったほか、「AIと人間性はどのようにバランスを取るべきか」という問いを掲げ、今回のテーマにもある「BEYOND」である必要性に言及。「AIは人間性を強化するために用いるべきだ」と主張した論文も発表された。
ほかにも、「Design for Human-Centred Technology(人間中心の技術デザイン)」では、韓国の高齢化社会における様々なユーザー体験の場面にテクノロジーを活用させる取り組みや、「Behavioural Design for Planet(地球のためのデザイン)」では、社会変革の場面において分野を超えた協業がどのようなメリットをもたらすのかといった事例が発表されていた。
「デザインの第一歩は、課題を発掘し的確にとらえること」。
午後は、モデレーターを長澤忠徳(カルチュラル・エンジニア、武蔵野美術大学教授・前学長)が務め、ユン・ヒョンゴン(韓国デザイン学会 / 理事)、ミハール・ジーソ(建築家、未来派起業家、宇宙建築家)、小野健太(千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュート教授)、ジェイコブ・マシュー(スリシュティ・マニパール・インスティテュート シニア・デザイン・プリンシパル)らによるパネル・ディスカッションが行われた。
ユンは「韓国の新人類 Z世代とデザイン」をテーマに、Z世代(おもに1997〜2012年生まれを指す)の価値観が韓国国内にどのような影響をもたらし得るかを発表。ジーソは「宇宙を考えることは、地球の未来を考えるということである」という主張を掲げ、視点を変化させることの重要性を語った。小野はルービックキューブを例に「デザインはつねに多様なユーザーの多様な課題に対して、柔軟に解決していく必要性がある」ことを述べた。シンガポール生まれでインド育ちであるマシューは、インドの都市バンガロールでの文化プロジェクトを取り上げ、「新たな社会に適応するためにはどのような教育が必要であるか」という問いについて論を展開していた。
会場からは、これらの他分野との協業プロジェクトにおける個人のビジョンの重要性やリーダーシップの在り方に関する質問も投げかけられた。これに対しジーソは、「ともに仕事することは個人を破壊することではなく、意見を出し合ってプライオリティをつけていくこと。視点の柔軟性につながるといった点で重要だ」と意見を述べていた。
また、長澤による「デザインの専門家はデザインの機能によって問題解決ができると考えてるが、私はそれに対して懐疑的だ」という問いも重要であると感じた。前述の基調講演でジャン・リウが述べていたように、「目に見える美しいものをつくるだけではない、考え方やテーマを設定するのもデザイン」という視点と関連してくるものだろう。
ほかにも同会場では、国内企業や各国のデザイン研究機関による発表やポスター展示、会場となった墨田区での取り組みなどを紹介する場も設けられており、千葉大学 デザイン・リサーチ・インスティテュートという場がデザインのプラットフォームとして活用されていた。
なお、28日は六本木アカデミー・ヒルズにて、各国のスピーカーによる国際デザインカンファレンスが実施。パノラマティクス主宰・齋藤精一をモデレーターとした基調講演をはじめ、4つのメインテーマに沿った議論が展開される予定だ。