100年前のデザインと経営
クリエイティブなアーティストと熟練の職人がタッグを組み、家具、食器、テキスタイル、アクセサリー、置物など、美しい日用品の数々をつくり販売する──。
現代のインテリアショップで目にしそうなコンセプトですが、これは20世紀の初め、現在のオーストリアであるハプスブルク君主国の首都ウィーンで設立された「ウィーン工房」(1903−32)が掲げた理想です【図1】。ウィーン工房は、芸術家と職人の工芸団体として出発し、オーストリアを代表する高級工芸品会社へと成長しました。存続期間は29年に及び、デザイン史上は、アーツ・アンド・クラフツ運動、アール・ヌーヴォー、バウハウス、アール・デコの時代と重なります。このあいだにヨーロッパは人類史上初の世界大戦を経験し、テクノロジーの進歩と機械化の加速によって人々の生活スタイルは大きく変貌しました。しかし、ウィーン工房は変わらぬ「ウィーンらしさ」を体現するデザインを主軸に、流行を発信し続けたブランド企業でした。
ウィーン工房は1907年前後の経営危機をきっかけに商業的展開へとかじを切り、アーツ・アンド・クラフツ運動の理想をもとに設立された団体としては、まれに見る発展を遂げました。一時期はベルリン、チューリッヒ、ニューヨークにも店舗を構え、昭和初期の日本の工芸雑誌にもその名が登場しています。今回は、「デザイン経営」という観点から100年前のウィーンのデザイン史をひもとき、現代との接点を探ってみましょう。