MUFG、初のアート支援
銀行と文化芸術の関係は決して薄いものではない。海外ではドイツ銀行が豊かなアートコレクションを形成し、国際的に様々アートプロジェクトを支援してきた。国内ではSMBC信託銀行が日本橋支店にアート作品を見ることのできるスペース「アートブランチ」を展開。またSMBCグループが今年の「TOKYO GENDAI」のメインスポンサーとしてその存在感をアピールしたことは記憶に新しい。
そしていま、日本を代表する金融会社・株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が初めて本格的な芸術支援に名乗りを上げた。同社が発足させたのは「MUFG工芸プロジェクト」。日本の伝統的な工芸の文化や技術の継承を支援し、そこから変化の時代に必要なイノベーションを学ぶことを目的としたものだ。
同プロジェクトの柱は大きく3つ。まずは工芸の作品展示として、MUFG丸の内本館ロビー(8月22日~31日)を皮切りに、大阪や名古屋のMUFG施設内において、現代の新進気鋭の工芸作家によるグループ展「持続可能な未来のために─工芸の伝統と革新」展を巡回させる。総合監修は、工芸の祭典「GO FOR KOGEI」のディレクションでも知られる東京藝術大学名誉教授・秋元雄史。出品作家は人間国宝から気鋭の若手、そしてメーカーまで、多様な顔ぶれで工芸の広がり・可能性を伝えるようなラインナップだ(出品作家:開化堂、金網つじ、桑田卓郎、kanakeno 田山貴紘、堤卓也、中川周士、奈良祐希、新里明士、HOSOO、見附正康、室瀬和美(人間国宝)+目白漆學舎、セメントプロデュースデザイン 山本裕輔(印傳の山本)、大内麻紗子(凛九)・大須賀彩(凛九)・太田結衣(凛九)・梶浦明日香(凛九)・田村有紀(凛九/田村七宝工芸)・ 中西由季(凛九)・藤岡かほり(凛九)・松尾友紀(凛九) ・那須恵子(凛九))。
加えて、今年開催される芸術祭・アートフェアのうち、前述のGO FOR KOGEIをはじめ、Art Collaboration Kyoto、KOGEI Art Fairの3つに対して協賛・支援を実施。また工芸文化の技術保全や伝承を担う団体や組織と連携・協働し、工芸の担い手をサポートしていくという。
なぜ「工芸」か?
MUFG経営企画部ブランド戦略グループで上席調査役を務める前川史佳は、「MUFG工芸プロジェクト」はおよそ2年の歳月をかけてスタートに漕ぎ着けたものだと話す。
「MUFGでは『世界が進むチカラになる。』というパーパスのもと、グループの純益の1パーセント程度を社会に還元するという枠組みを整えています。そうしたなかで、日本の文化に対して何ができるのかを検討し、工芸に至りました」。
MUFGは上記パーパスのなかで5つの優先領域を設定しており、そのなかに「文化の保全と伝承」も含まれている。そうしたなかで工芸をあえて選択したのはなぜか?
「工芸は伝統を紡いできただけでなく、時代に応じて挑戦・革新を繰り返してきた。それはいまの企業にも求められるものであり、企業人としても学ぶところが多い。そうした点から、工芸がもっともMUFGにマッチするものであり、支援するに至りました」。
日本有数の大企業が工芸へのサポートを決めたことは非常にインパクトが大きいと秋元も評価する。
「たんなる助成や協賛ではなく、主体的に工芸に関わっていきたいというMUFGの強い意気込みを感じています。工芸は分業制であり、作家だけでなく、作品の原材料や素材の加工を担う地場産業の職人も含めると、非常に多くの関係者がいる。こうした担い手は年々減少しており、将来が危惧されます。文化庁や経済産業省など縦割りの行政ではなく、ゆるやかに、横断的に様々な機会を創出しながら環境を整えていくためのサポートは有意義なものだと思います」。
MUFGは日本全国にネットワークを有しており、各地域の地場産業とも密接に関わることも可能だ。こうした銀行ならではの強みを存分に活かた長期的な支援が期待される。