ロエベ財団が2016年より行っている「ロエベ財団 クラフトプライズ」。2023年の大賞を稲崎栄利子(1972年生、日本)の《Metanoia》(2019)に授与することが発表された。
今年は、117の国と地域からなる2700点以上の応募のなかから、30名のファイナリストが専門家委員会によって選出。そのなか、日本からは国別最多の6名のファイナリストが選ばれた。クラフトプライズは、「ものの本質から熟考し時間をかけたテクニックと、素材を巧みに操る術を探求した作品」という基準で審査が行われた。
稲崎の複雑な陶磁器による造形物は、極小のパーツを集積することで結晶化した表面を生み出したもの。審査員は、「陶磁器で様々なエレメントから相乗効果を生み出すという、これまで見たこともないような卓越した技術である」と評価している。
稲崎の受賞に加え、今年はドミニク・ジンクペ(1969年生、ベナン)と渡部萌(1996年生、日本)の2名も特別賞を授与される。
ジンクペの《The Watcher》(2022)は、小さなイベジ(ヨルバ語で双子の意味)人形を組み合わせた作品で、ヨルバの伝統的な信仰である多産を連想させるものだ。審査員は、伝統的な信仰を彫刻的に再解釈し、現代のクラフトのあり方を拡張している点を評価し、同作を選んだ。
いっぽう、渡部の《Transfer Surface》(2022)は胡桃の木の皮でできた箱からなるもので、季節の循環に敬意を表し、日本古来の伝統である生け花を想起させる。審査員は、樹皮の素材感の素晴らしさと、建築の構造や修理の伝統に着想を得たリベットの使用により、同作の受賞を決定した。
ファイナリスト30名の作品は、6月18日までニューヨークのノグチ美術館にあるイサム・ノグチのスタジオで展示されている。同展はオンラインでも閲覧可能となっており、ファイナリストの各作品を収録した展覧会カタログも刊行される予定だ。
ロエベのクリエイティブディレクター、ジョナサン・アンダーソンは、今年のプライズにあたり次のようにコメントしている。「クラフトはまさにロエベの神髄です。ロエベが追求するのはその言葉が持つもっとも純粋な意味でのクラフトなのです。そこにこそ私たちの考えるモダニティがあり、クラフトはつねに私たちとつながっているのです」(プレスリリースより)。
なお、2019年の受賞者も日本からの石塚源太だった。これまでは、ダヘー・ジョン、Fanglu Lin、ジェニファー・リー、エルンスト・ギャンパールが大賞を受賞している。