大阪の街をめぐりアートやデザインに出会う周遊型のエリアイベント「Osaka Art & Design 2023」が5月31日からスタートした。阪急うめだが本店を構える梅田エリアを中心に、中之島、天満橋、京町堀、本町、心斎橋の各エリア20ヶ所から33プログラムのギャラリーやショップが参加。アートやデザインに触れあう場所や企画を展開しながら、大阪ならではの「感性の共鳴」を創出するものだ。同イベントは25年に控える大阪関西万博に向け、大阪のクリエイティブカルチャーを全国・世界発信するイベントとして継続的な開催が予定されており、同地が世界に誇るクリエイティブシティであることを示していくという。
23年のグランドテーマは「Culturescapes(感性百景)」。多彩な感性が広がりつながることで、美しい風景と出会うように人生が豊かになっていくことを目指すものだ。イベントの中心となる阪急うめだ本店では、バルーンアーティストの細貝里枝とアートディレクターでグラフィックデザイナーの河田孝志からなるアーティストユニット・DAISY BALLOONのインスタレーションが1階のコンコースウィンドウと9階の祝祭広場に登場した。ウィンドウに展開されているインスタレーション《海“生命の起源”》は、魚群をモチーフに循環から生まれるエネルギーを表現している。
中之島のなにわ橋駅地下1階「アートエリアB1」には、関西・京都を活動拠点とし、竹川諒、中矢知宏、中村慎吾のデザイナーとエンジニアの3人で構成されるクリエイティブユニット・xoriumによる《TERRA》が展示。AIが造形した架空の景色を再現し、鑑賞者がそれぞれのバックグラウンドや心理状態を反映し生まれる「心象風景」を生み出すインスタレーションだ。人々が疲れていると感じたコロナ禍。そのなかで「いま、その瞬間」に思いを馳せることをうながす作品となっている。
同じく中之島エリアに2020年に誕生したgraf porchは、作家が宿泊しながら制作・展示ができるオルタナティブスペース。ここで展示を行っているのは、グラフィックデザイナーでJAGDA新人賞2023を受賞した矢後直規だ。会場には新人賞展でも展示された《新鳥獣図》が登場。グラフィックデザインに携わってきた矢後ならではのレイヤーの考え方から画面をオーバーラップさせることで、伊藤若冲の《鳥獣花木図屏風》をアップデートするものだ。手描きとグラフィックのバランスを探る矢後の試みにも注目したい。
同イベントにあわせオープンしたばかりのTANYE galleryでは、日常ではめったに意識される機会のないモチーフ「紐」をテーマに、TANYEのデザイナーたちが様々なアプローチを試みている。グラフィックから写真、プラモデルの手法や考え方でとらえた紐のかたちなど、対象の新たな一面やまだ見ぬ面白さを掘り下げようとする取り組みには、デザイナーたちの純粋な好奇心が表れている。
京町堀にあるアートアンドクラフト大阪オフィス&ショウルームでは、作家・JunAleによる刺し子の作品が展示されている。昔ながらの手仕事「刺し子」を現代にアップデートさせ、スニーカーや古着を独自の佇まいに変換するこの取り組みは国内外で注目を集めている。刺し子はもともと修復の技法でもあるため、履き古されたスニーカーなどには個性あるパターンが生まれることも面白さのひとつだろう。
また、同ビル2階にあるセレクトショップhowseでは、イベント期間中「Nature in Object」をテーマに、人と自然の関係性から生み出された作品や鉱石の標本などを展示・販売している。
同エリアにあるセレクトショップ・アルコストアでは、フィンランドを代表するデザイナー、アルヴァ・アアルトによってデザインされた「スツール60」の90周年を記念した特別モデルが3つ発表されている。脚と座面の構造を高温熱処理による濃い色で強調した「スツール 60 コントラスティ」や、今回初披露となる炎のような木目が特徴の数量限定モデル「スツール 60 ロイム」は現在販売予約を受付中だ。
また、建築家・田根剛による新モデル「スツール 60 Sleeping Beauty − 眠れる森」も登場。土に埋めることで着色されたスツール60は、自然の色と時間の経過が付与され、独自の風合いが生み出されている。
COTO MONO MICHI AT PARK SIDE STOREでは、デザインプロデュース会社・brand introductionによる国内の職人の技術力を作品とする展示が行われている。台東区浅草の株式会社久保柳商店による革加工技術とコラボレーションし生み出した新たな革ブランド「te saho(テサホ―)」をはじめ、全国の職人技術と、同社プロデュースのもと生み出された新たなブランドや商品が紹介されている。
南堀江にあるTEZUKAYAMA GALLERYでは、作家・平野泰子による同ギャラリーでの初個展が実施されている。根底に「風景」のイメージがあるという平野は、視覚以外の温度や空間などの情報をとらえて絵に起こすことで、抽象画にも関わらず画面に奥行きと光を感じるような作品を生み出している。
また、同時期には企画展「Gallery Collection – 舟越桂」も開催されている。こちらに足を運ぶ際はあわせてチェックしてほしいところだ。
エスパス ルイ・ヴィトン大阪には、アルベルト・ジャコメッティの7つの彫刻が来日している。本展は、パリにあるフォンダシオン ルイ・ヴィトンの所蔵作品を世界各地のエスパス ルイ・ヴィトンで展示する国際的なプロジェクトの一環。天井高のある会場では美しい光のなかでジャコメッティ作品を鑑賞できるとともに、巨大スクリーンでは関連するドキュメンタリーが上映されている。本展のレポートはこちらを参照してほしい。
天満橋にあるアートコートギャラリーでは、具体美術協会会員であった今井祝雄による個展「今井祝雄の音」が開催中。会場では今井作品の軸ともなる「音」の作品をメインに、心臓音をテーマとした70年代の作品群から最新作までが展示されている。自身の心臓音を録音したふたつの音源をあわせた《Two Heartbeats Mine》(1976)の生々しさや、倉貫徹、村岡三郎との共同パフォーマンス《この偶然の共同行為をひとつの事件として……》(1972)の記録は、当時の様子や世間の反応が記してあり、非常に興味深い内容となっている。
このほかにも数々のプログラムが大阪の街なかで展開されている。よくある観光名所とはまた一味異なった、大阪の新たな一面をそのクリエイティビティから感じることができるだろう。