「日常生活での“アート体験”を媒介として、社会のさまざまなあらゆる関係をブリッジする」。これをコンセプトに掲げるプロジェクト「JAPAN ART BRIDGE」が立ち上がった。主体は東日本旅客鉄道株式会社、株式会社INERTIA、株式会社ルミネアソシエーツ、株式会社JR東日本クロスステーション デベロップメントカンパニーだ。
同プロジェクトは、「JR東日本のアセットを活用したアート体験の提供」「リアル拠点でのアート作品の展示およびグッズ等の販売」「オンラインショップでのアート作品等の販売 」の3つを柱とするもの。総合ディレクターには、INERTIA代表取締役でありアートディレクターとして知られる吉井仁実が就任。アーティストやクリエイターとのコラボレーションを順次開始していくという。
リアル拠点として活用されるのは、中央線神田・御茶ノ水間に1943年まで存在していた旧万世橋駅の遺構をリノベーションした商業施設「マーチエキュート神田万世橋」(2013年開業)だ。「JAPAN ART BRIDGE」は、それまで店舗が入居していた広大なスペースを再活用するかたちで、580平米のスペースを確保。現代美術やデジタルアートを中心とした作品のほか、アート関連書籍・フレームなどを展示・販売するほか、ワークショップ、トークショー、交流会なども実施していく。現在はスモールスタートの状態だが、7月頃には建築家・永山祐子設計の内装が完成し、本格稼働するという。
いっぽうオンラインでは、プロジェクトで取り扱う作品を購入できる専用オンラインショップをJRE MALL内に開設。一部作品は上記のリアル拠点でも展示される。
JR東日本は近年、アート事業に注力する姿勢を見せており、2021年には山手線・上野駅の公園口改札内連絡通路において、「山手線を美術館にする」というプロジェクト「Yamanote Line Museum」をスタート。また22年にはアートと音楽の祭典「HAND!in YAMANOTE LINE」を開催するなど、鉄道網を活かした独自のアートプログラムを展開してきた。そうしたなか、「JAPAN ART BRIDGE」はなぜ生まれ、何を狙うのか?
JR東日本のマーケティング本部でくらしづくりを担う村上悠は「社会の成熟期を迎えるなか、文化的なことへの取り組みが重要になっている」と、その事業背景を語る。村上によると、約1300万人を擁するJR東日本のポイントサービス「JRE POINT」の会員にはアートへの高い関心が見られるという。「JAPAN ART BRIDGE」には、そうした人々が生活の中にアートを取り込むための「ファーストステップ」となりうる作品が中心にラインナップされており、顧客を中心としたアート需要を満たしたい考えだ。
またこの取り組みの中心的な役割を担う吉井は、「アートのど真ん中ではなく、その周辺でアートを感じられる場所になればいい。万世橋はユニークベニューなので、サイトスペシフィックなアートも展開しつつ、様々なものを調和させたい」と意気込みを見せる。
JR東日本はホテルや高架下をはじめ、様々なバリエーションのアセットを所有している。「JAPAN ART BRIDGE」では今後、こうしたアセットをアートの視点から活用する可能性もあるという。また、ビジネス的な側面のみならず、アーティストとの共創によって東日本エリアの活性化、作家支援にもつなげたい構えだ。