JR東日本では、グループ経営ビジョン「変革2027」 および 生活サービスビジョン「CITY UP!」(駅から、街から、未来をつくろう)の実現に向け、山手線を起点に、まちの個性を引き出し、まちや人が有機的につながる、心豊かな都市生活空間 として「東京感動線」 の創造を進めている。
その一環として今年2回目の開催を迎えるアートと音楽の祭典「HAND!in YAMANOTE LINE」では、山手線沿線の駅や街で様々なイベントを3月7日まで開催。なかでもとくにアートの分野において、注目したい試みを紹介する。
作品が中吊り広告に。ウェブで販売も実施する「山手線 ver.HAND!by 東京感動線」
山手線車内に気鋭のアーティストによる作品を中吊りとして展示する「山手線 ver.HAND!by 東京感動線」は、2月1日まで運行され、アートディレクションユニット「MELTedMEADOW」のキュレーションのもと、宮内柚、黒坂祐、沼田侑香、AKITO NARA、vug、谷村メイチンロマーナ、三澤亮介、梅原義幸、林青那、水谷栄希、MELTed MEADOWの11組の作品が展示されていた。
中吊りの作品はすべて1点ものとなっており、車両の運行はすでに終了したものの、実際に展示されていた作品はオンラインで購入可能。山手線を周回して「展示」された作家たちの作品を、自宅で楽しんでみてはいかがだろうか。
上野駅のコンコースがギャラリーに。「YAMANOTE LINE MUSEUM」
上野公園につながる上野駅公園口改札内の通路では、美術作品を広告フレームに展示する「YAMANOTE LINE MUSEUM」が開催されており、AKITO NARA、黒坂祐、vug、山田康平、林香苗武、Kentaro Murata、皆川貴海、キム・ヒョンソクの作品が並ぶ。上野の美術館を訪れる際などには、こちらもあわせてぜひチェックしたい。さらに、気に入った作品はウェブから購入することも可能。自分へのプレゼントや大切な人へのギフトとしていかがだろうか。
カフェでのひとときアートとともに。「ToMoRrow Gallery」
高田馬場駅早稲田口改札外の「BECK'S COFFEE SHOP 高田馬場店」は、アートが買える駅のカフェ「ToMoRrow Gallery」になっている。ここでは、空間全体を使って気鋭のアーティストの作品を展示しており、「HAND!in YAMANOTE LINE」の開催期間中は、2月17日まで宮内柚が、2月18日からは新納翔が作品を展開。空間全体でその表現を楽しみたい。
30駅を人気絵師がアート作品に。「山手線30駅を巡るデジタルスタンプラリー」
山手線30駅をめぐって、30人の絵師がイメージした未来の山手線各駅や街並みのデジタルスタンプを集められる「デジタルスタンプラリー」も開催されている。スマートフォンに無料アプリ「Spot Tour」をダウンロードしたうえで各駅をまわることで、人気絵師たちのイラストが入手可能。また、これらのイラストのサイン入り作品は、JRE MALL上で購入することも可能だ。
街との協働プロジェクトにも注目。鶯谷の魅力を再発見する「鶯谷所印」
ターミナル駅を多数擁する山手線のなかでも比較的乗降客数が少ない鶯谷駅。「HAND!in YAMANOTE LINE」開催期間には、この街のいたるところでイベントが開催される。なかでも、この街の知られざるディープなスポットをめぐる「鶯谷所印」は、寺社の御朱印をあつめる御朱印帳を模した「所印帳」を持って街を歩きながらスタンプを集め、自分だけの鶯谷を発見できるイベントだ。スタンプはラブホテル街から歴史的なスポットまで19ヶ所に設置されており、スタンプの図案もすべて異なるイラストレーターによるもの。それぞれのイラストレーターが街のスポットをどのように表現したのかもあわせて楽しむことができる。
この「鶯谷所印」を手がけたのは、アートディレクターでありグラフィックデザイナーの村口麻衣だ。村口は2018年より鶯谷を文化活動を通じてリブランディングするプロジェクト「うぐいすチャンネル」 を立ち上げ、この街のキープレイヤーとして活動してきた。その一環として手がける「鶯谷所印」は、昨年の「東京ビエンナーレ」にも参加している。
村口は「鶯谷所印」を、「東京にありながらもマイナーな街である鶯谷を編集的にピックアップして新たな視点を与えるもの」と位置づけている。村口は今回の企画について、次のように語ってくれた。「鶯谷はラブホテル街から由緒正しい近代建築までがあり、人によって見え方がまったく異なる街です。何気ない街の風景を楽しめる散歩が好きな人にとっては、魅力的な場所がたくさんあります。ぜひ今回のイベントでの所印を機に、多くの人にそれを知ってもらえれば」。今回は実際に所印のスポットを回ってみたので、その様子をピックアップしてレポートしたい。
所印を押す所印帳(300円)を購入できるのは、言問通り沿いに建つホテル「LANDABOUT TOKYO」だ。ダイニングバー「LANDABOUT Table」を併設し、人々が集う交差点のようなこのホテルの2階受付で所印帳とマップを手にいれてから、所印集めをスタートさせたい。
鶯谷の知られざる歴史的建造物といえば、旧陸奥宗光邸。「LANDABOUT TOKYO」の裏側にある住宅街のなかに佇むこの邸宅は、明治のころに外務大臣を担当していた陸奥宗光が、三井家から寄贈されて3年ほど住んでいたという。内部に入ることはできないが、外観を眺めるだけでも都内最古級の明治の邸宅建築の威容を感じることができるだろう。
鶯谷駅から北に向かって金杉通りから路地を入ったところにある「Cafe & kitchen ayacoya」にも注目したい。元料亭らしい趣向を凝らした意匠が残るこの店は、昼は野菜を中心とした無添加オーガニックのランチを提供。さらに厳選されたエシカル雑貨も扱っており、これだけを目当てに訪れる客も多いそうだ。かつての面影を大切にしつつ、新たな時代の潮流に乗るこうした店に出会えるのも鶯谷の楽しみのひとつだ。
ほかにもチリビーンズが看板メニューの「CHILI PUNCH」、創業86年の老舗せんべい屋「鴬谷 寿々㐂」、深夜までクレープとカクテルを楽しめる「crepe & bar nuit」など、魅力的な食のスポットにも所印が置かれている。
鶯谷駅の東、入谷駅近くにある旧銭湯の建物を活かしたリノベーションカフェ「レボン快哉湯」。この地で90年近くにわたって愛されてきたこの銭湯は、2016年に閉店したものの、20年にカフェとして再生された。現在はサテライトオフィスも入るなど、新たな街の顔として親しまれている。当時のままの下駄箱や番台のほか、圧巻なのは銭湯絵師として著名な早川利光による富士山のペンキ絵。自家焙煎のコーヒーとともに楽しみたい。
空前のサウナブームといえる昨今だが、鶯谷を代表するサウナといえば「サウナセンター」。東京に現存するなかでは最古級といわれているこのサウナ施設のなかには、サウナはもちろん、食事処や休憩室、カプセルホテルまでがそろっており、1日過ごしながら「ととのう」ことができる。
街を散歩しながら、鶯谷という街の知られざる場所や歴史を感じることができる「鶯谷散歩」。「HAND!in YAMANOTE LINE」を機に、いつもは何気なく通り過ぎる街に降り立って、その新たな顔と出会ってみてはいかがだろうか。