大竹伸朗、16年ぶりの大回顧展で感じる底知れぬパワー

日本を代表するアーティストのひとり、大竹伸朗。2006年以来、16年ぶりとなる大回顧展「大竹伸朗展」が、ついに東京国立近代美術館で幕を開けた。会期は11月1日〜2023年2月5日。

東京国立近代美術館に設置された《宇和島》(1997)

 日本を代表するアーティストのひとりとして常に熱いエネルギーを放し続けている大竹伸朗。2006年に東京都現代美術館で開催された「全景 1955–2006」以来、16年ぶりとなる大回顧展「大竹伸朗展」が東京国立近代美術館で幕を開けた。会期は11月1日〜2023年2月5日。担当キュレーターは成相肇。

 大竹伸朗は1955年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業。80年代初頭より、絵画を中心に音や写真、映像を取り込んだ立体作品などの多彩な表現を展開。異分野のアーティストとのコラボレーションでも知られ、現代美術のみならず、デザイン、文学、音楽など、あらゆるジャンルで活躍してきたアーティストだ。88年に愛媛県宇和島へ移住して以来、現在も同地を拠点に活動している。

大竹伸朗。報道内覧会にて

 近年では、ドクメンタ(2012)とヴェネチア・ビエンナーレ(2013)という二大国際展に出展。国内では2019年に「ビル景 1978-2019」(水戸芸術館現代アートギャラリー)を開催。直島の「I♥湯」や、道後温泉本館の保存修理工事現場を覆う巨大なテント幕作品《熱景/ NETSU-KEI》など、建築的な作品でも知られる。

道後温泉本館を覆う《熱景/ NETSU-KEI》

 デビュー個展から40年の節目に開催される本展は、これまでの創作活動を約500点という膨大な数の作品で振り返るもの。

 展覧会の準備にかけた時間は3年以上。大竹は「多くの方に助けていただいた。この規模の展覧会はあまり機会はなく、到底ひとりでできるものではない」としつつ、「カタログも含めて挑戦要素が多い。会場構成も綿密に組んでおり、いままでにない展覧会になっている」と自信を覗かせる。

カタログは1冊の本ではなく、複数の要素で構成れている

 会場は時系列の「教科書的」な構成ではなく、「自 / 他」「記憶」「時間」「移行」「夢 / 網膜」「層」「音」という7つのテーマに基づいて構成。それぞれが大竹の中に連綿と流れ続ける言葉だという。

 各テーマはゆるやかにつながっており、行きつ戻りつ、作品を鑑賞することができる。成相は、「テーマは概念として重なり合うものもある。セクションにこだわってご覧いただくというよりは、手がかりとして受け止めてもらいたい」と語っている。

展示会場エントランス。このロゴももちろん大竹伸朗が手がけた
展示風景より

 大竹が9歳の頃につくったコラージュ作品《「黒い」「紫電改」》(1964)から、ライフワークとしてほぼ毎日制作しているスクラップブック全71冊、2012年のドクメンタで発表された《モンシェリー:自画像としてのスクラップ小屋》(2012)、そして本展で初公開となる圧倒的な密度を持った大作《残景 0》(2022)まで、展覧会を通覧すると、大竹というアーティストがいかに多様で、持続性を持った人間かがよくわかるだろう。

展示風景より、中央が《「黒い」「紫電改」》(1964)
展示風景より、スクラップブックの数々
展示風景より、《モンシェリー:自画像としてのスクラップ小屋》(2012)
展示風景より、《残景 0》(2022)

 本展は会場全体がハイライト、と言っても過言ではないが、そのなかでもとく注目するのであれば、東京国立近代美術館のファサードに取り付けられた《宇和島駅》を挙げたい。

 この作品は、90年代半ばに宇和島駅が改築されるとき、廃棄される予定だった駅名ネオンを大竹が貰い受け、保管していたもの。会期中、夜にはネオンが点灯し、昼間とは異なる、哀愁を帯びた光景を見せる。

展示風景より、《宇和島駅》(1997)
夜の《宇和島駅》(1997)

 本作は「東京国立近代美術館」と「宇和島駅」の文字が交差するように展示されているのがポイントだ。大竹はこの交差を「ある種のコラージュ」だとしている。つまり、大竹が平面作品において取り組んでいるものと地続きなのだ。

 いっぽう成相は、サインが美術館外観に設置されていることで、「この美術館自体が《宇和島駅》に、作品になってしまっているとも言える」と語る。なお大竹は「地名」に対する思い入れがあり、美術手帖のインタビューに対して次のように語っている。

要するにこれも、作品をつくろうと思って手元に置いておいたわけじゃないんですよ。自分が生まれたところの地名って選べないから、進学なり就職なりをきっかけにその土地を離れることになると、それからその土地と自分の関係が始まると思うんだよ。俺は東京の出だから宇和島の人たちからすればまったくのヨソ者だけど、高校卒業後に北海道の牧場に住み込みで働いていたとき、ふと雑誌だか何かで東京の地名を見てぐっと切ないものが込み上げてくることがあったわけ。そのときに、地名って想像以上に人に影響を与えていることがわかったんだけど、そういう思いがあったから、宇和島駅のサインは絶対捨てちゃダメだって思ったよ。 
宇和島駅の文字にネオン管が灯っているのを見て育った人にしたら、あのサインは出会いも旅立ちも含めてある種の象徴なわけじゃない。普段は当たり前のものだけど、なくなってみて初めて大事さに気づくっていうかさ。「全景」展のときもそういう感想をもらいましたよ。宇和島から東京に出てきてバンドをやってて、東京都現代美術館に展覧会を見に行ったらボンって「宇和島駅」のネオン管が目に入ってきて、反射的に泣きましたって。(大竹伸朗インタビューより)

「世界は破壊が続いているが、モノをつくりだすパワーを感じてもらえれば」。大竹は記者会見をこの言葉で締めくくった。破壊ではなく創造を。創造だけが放つ力を、きっと会場では感じられるだろう。なお本展は東京会場の後、愛媛県美術館(23年5月3日〜7月2日)、富山県美術館(8月5日〜9月18日[予定])へと巡回する。

展示風景より
展示風景より、《壁、ロンドン》(1978)と《ニューシャネル》(1998)
展示風景より
展示風景より
展示風景より、《ダブ平&ニューシャネル》(1999)

編集部

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