イッタラ日本初の大規模展覧会で振り返る、その美学と歴史

フィンランドを代表するライフスタイルブランド「イッタラ」。その日本初の大規模展覧会「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」が東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開幕した。会期は9月17日から11月10日。

展示風景

 1881年に設立された、フィンランドを代表するライフスタイルブランド「イッタラ」。その創立140周年を記念し、フィンランド・デザイン・ミュージアムが2021年に開催した展覧会を再構成した「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」が東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで始まった。会期は11月10日まで。

 イッタラは、アルヴァ・アアルトやカイ・フランクらフィンランドデザインの発展を牽引したデザイナーとともに歩んできたブランド。美しさと機能性をあわせ持つそのプロダクトは、世界中で愛され続けている。

 本展は、全4章で構成。イッタラの歩みを象徴する20世紀半ばのクラシックデザインのガラスを中心に、陶器や磁器、映像やインスタレーションを交えた約450点が展示されている。その作品群を通して、技術や哲学、デザインの美学、さらにイッタラと日本の関わりにも迫る内容となっている。

 第1章「イッタラ140年の歴史」では140年続くイッタラの歴史を振り返る。1881年、イッタラはフィンランド南部のイッタラ村に設立されたガラス工場からスタート。創業時は、家庭用のグラスやボトル、薬瓶を製造していた。同時にクリスタル・カット・モデルの製品も開発し、19世紀末にはカット・クリスタルの有名メーカーへと成長した。

 また、最初期からプレスガラスの製造も手動でおこなっており、プレスガラス製品の柄の多くはクリスタル・カットの柄を模倣していたことから、「貧乏人のクリスタル」と呼ばれることもあったという。

展示風景より、右から皿《アメリコンスカ(アメリカン)》(1913)、クリスタルガラス《ソシエテ》(1900)、イッタラ製品カタログ(1889)

 1950年代に入ると、イッタラ製品ではおなじみの「iロゴ」が誕生した。これはイッタラにおいてウィンドウ・ディスプレイやグラフィックデザインを担当していたティモ・サルパネヴァ(1926〜2006)が手がけたもの。1956年には、サルパネヴァによる《i-ライン》と呼ばれる家庭用ガラスのシリーズとそのパッケージ、赤いiロゴがデザインされた。このロゴはやがてイッタラ全体のシンボルとなり、今日でも大きな変更なく使用されている。

展示風景より、ティモ・サルパネヴァ《iライン》のパッケージ(1956) ほか

 第2章では、イッタラを語るうえでは欠かせない8人のデザイナー、アイノ・アアルト、アルヴァ・アアルト、カイ・フランク、タピオ・ヴィルカラ、ティモ・サルパネヴァ、オイバ・トイッカ、ハッリ・コスキネン、アルフレッド・ハベリを取り上げている。

 モダニズムの巨匠としてその名が知られる、世界的建築家のアルヴァ・アアルト(1898〜1976)は、有機的なフォルムの採用や素材にこだわった、周囲の自然環境との調和に優れた建築が特徴だ。「優れたデザインは日常の一部であるべき」という思想のもとプロダクトデザインも手がけ、1936年にデザインされた《アルヴァ・アアルト コレクション》は、当時革新的であった。今日では時代を超えてイッタラの象徴となっている。

展示風景より、アルヴァ・アアルト 花器《アルヴァ・アアルト コレクション》(1936)
展示風景より、アルヴァ・アアルト《アアルト ベース》のためのドローイング(1936)

 フィンランドの伝説的デザイナーと評されるカイ・フランク(1911〜1989)は、無駄を削ぎ落とした、誰にでも、どんな場面でも使うことができる器のデザインを目指した。また、フランクは色彩の開発にも注力。イッタラのバリエーション豊かなカラーガラスの礎を築いた。

展示風景より、カイ・フランク タンブラー《キマラ(カクテル)》(1953)、カラフェ《1610》(1954)
展示風景より、カイ・フランクによるデザインスケッチ(1943〜1970年代)

 イッタラには日用品以外にも製品が存在する。オイバ・トイッカ(1931〜2019)は、カラフルで芸術性に富んだ作品で、北欧デザインの主流とは異なる新しい風を吹き込んだ。その想像力と遊び心が発揮されているのが代表作《バード バイ トイッカ》のシリーズ。一つひとつ異なる鳥の表現を、ガラスの製作技術を駆使して見事に表現しているのが特徴だ。

展示風景より、オイバ・トイッカ《バード》シエッポ(1972)、ラウルラスタス(1984)、スペシャルモデル 2003年(2003)
展示風景より、オイバ・トイッカ《バード バイ トイッカ》

 第3章では「イッタラを読み解く13の視点」を紹介し、イッタラ製品の独特なコンセプトやその魅力にせまる。

 例えば、その視点のひとつに「素材としてのガラス」がある。ガラスはエジプトやメソポタミアで発展を遂げたものであり、フィンランドにその製法技術がもたらされたのは18世紀となる。当時、ガラス職人の多くは中央ヨーロッパの工房で働いており、製法技術は秘密とされていた。1881年にイッタラが創立されたときは、すでにフィンランド国内に数十の小さな工房があり、ほかの工房やスウェーデンから職人が移ってきていたと言われている。

展示風景より、2019年のアニュアルカラー「シーブルー」の製品
展示風景より、2019年のアニュアルカラー「シーブルー」の製品

 ガラス製造には大きく分けて2つの技法、吹きガラスとプレスガラスがある。この章ではそれらを「職人の技」「型でつくる」というタイトルで紹介し、イッタラで改良、開発された様々な製品を展覧することができる。

展示風景より、カイ・フランク ボトル《カイヴォンカツォヤ(水脈占い師)》(1948)ほか
展示風景より、ティモ・サルパネヴァ《ケッケリト(パーティー)》の型とグラス(1973)

 イッタラで特徴的な点といえば、そのカラーバリエーションが挙げられるだろう。イッタラのカラーガラスには長い変遷があり、色を開発するのには素材や鉱物を掛け合わせるため、新色の開発にときには数年費やすこともあるという。現在ではカラーパレットが200色もあり、そのうち毎年平均20色が主に使われ、新色も開発され続けている。

展示風景より
展示風景より、イッタラのカラーガラスのサンプル(2020)ほか

 イッタラの特徴をもうひとつ紹介したい。それは美しいスタッキングだ。第二次世界大戦後、マンションなどの集合住宅が増えたことにより、収納スペースが限られるようになった。その際人気を博したのが、スタッキングができる製品だった。スタッキングされてもなお魅力的なプロダクトは、生活者にとっては嬉しいポイントでもあるだろう。

展示風景より、ティモ・サルパネヴァ ボウル《マルセル》(1993)
展示風景より、手前よりタピオ・ヴィルカラ タンブラー《フォレスト(森)》(1962)

 第4章は「イッタラと日本」の関係を紹介するセクションだ。イッタラと日本の関係は古く、1950〜60年代にさかのぼる。この時期、カイ・フランクはたびたび来日し、日本の工芸やデザインに触発された製品を残した。日本でのフィンランド・デザインへの関心も高く、イッタラ製品を含む大規模な展覧会が東京で開催されることもあった。

展示風景より、カイ・フランクによるケトル

 また、21世紀に入ると、イッタラは国際的なコラボレーションを積極的に推し進めた。この章では、日本のブランドであるイッセイ ミヤケとミナペルホネン、建築家の隈研吾と行われた仕事も紹介されており、イッタラと日本の交流も垣間見ることができる。

展示風景

 本展では約450点もの製品が一堂に会しているが、その章立てのユニークさや製品の美しさから見ていて飽きることがない。 

 なお、本展ではミュージアムショップにてイッタラの製品やオリジナル商品を取り扱っており、非常に魅力的なラインナップとなっている。こちらもあわせて楽しみたい。

編集部

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