中国の春秋戦国時代を舞台に、戦乱に身を投じる人々の生き様を描いた、原泰久のマンガ作品『キングダム』。既刊61巻、累計発行部数8000万部(電子版含む)を超える同作の原画を集めた展覧会「キングダム展 -信-」が上野の森美術館で開幕した。
『キングダム』は中華統一を目指す秦の将軍として、戦いに身を投じる主人公・信の姿を描いた作品だ。本展は、原作マンガの単行本40巻に収録された438話「雄飛の刻」までの描き下ろしをふくめた原画を、展覧会独自のピックアップもふくめて、第0章から「エンディング」までの14の章で紹介するものだ。
同展では、豊富な原画を展示するのみならず、キャラクターの姿やセリフを大型パネルにプリントして展示。物語の象徴的なシーンをダイナミックに見せる工夫がなされている。物語の始まりにして原点である原作冒頭を紹介する第0章「無名の少年」では、戦災孤児であった信と漂のふたりが夢を語り合い、そして別れるまでの原画を展示する。
信は初の戦場となった「蛇甘平原の戦い」を経て、秦の大将軍・王騎と出会うことになる。展覧会の第2章「秦の怪鳥」では、原が描きおろした王騎の原画を展示するとともに、高さ約3メートル、幅約1.5メートルという巨大な和紙パネルでその存在の大きさを表現している。
やがて信は、王騎により「飛信隊」と名づけられた自らの部隊の長として活躍する。第3章「馬陽防衛戦」では、目まぐるしく状況が変わる戦場で活躍する信の姿を、描きおろし原画と立体的な造作によって表現。
やがて、大将軍であった王騎にも死が訪れ、その思いを信は受け継ぐことになる。王騎の死後、信は頭角を現した王賁、蒙恬とともに、大将軍を目指す新たな勢力となっていく。第5章「受け継ぐ者」、第6章「大将軍を目指す者たち」では、この王騎の死と若い勢力の台頭を、静と動の対比的な展示で見せる。
「山陽攻略戦」「函谷関の戦い」と将軍たちの壮絶な戦いが描かれる原作に沿って展示は進む。1階展示室に下りた第10章「蕞の攻防」では、本作のもうひとりの主人公であり、後の始皇帝である嬴政が、趙軍との壮絶な戦いをする様を原画と豊富なパネルによって表現。
そして第11章「呂不韋の問い」以降は、展覧会ならではの視点で作品のテーマを切り取っている。第11章では、信と嬴政の前に立ちはだかり、その思想を真っ向から否定する秦の丞相・呂不韋の存在をピックアップし、いかにその問いを覆すかを展示で見せる。
第12章「人の本質は光」は嬴政の「人の本質は光」という問いがいかに生まれたのかを、描きおろしのカラー原画や大型パネルによって情感豊かに表現。そして、第13章では天下の大将軍となった信の未来の姿の描きおろしを展示し、信の夢の行方を象徴的に告げる。
最後となる「エンディング」では、描きおろしのキービジュアルをふくむ、カラー原画16点を展示。また、『キングダム』の読切ネームやラフスケッチ、原の私物であり同作の原典でもある司馬遷『史記』の邦訳書などが並ぶ。
描きおろし20点を含む、約400枚の原画を展示することで、人気マンガ作品の魅力に迫る展覧会となっている。