国内随一の温泉地・大分県別府市の西北部、別府八湯のひとつである「堀田温泉」エリアの断層崖の上に、新しいアートホテル「GALLERIA MIDOBARU」(ガレリア御堂原)が誕生した。
同ホテルは、別府に拠点を置く株式会社関屋リゾートが展開する宿。ホテルの建築および空間デザインは、大分の建築設計事務所DABURA.m Incが担当。アートキュレーションやコンセプト立案などはNPO法人BEPPU PROJECTが、クリエイティブディレクション、アートディレクション、ウェブサイトなどはクリエイティブチームgrafが手がけている。
建築の外観は、断層崖に連続する「削り出された大地」としての壁の群れや、それに穿たれた孔が特徴的だ。館内にはカフェ・バー「HOT SPRING BAR」や4つのテラススペースがパブリックゾーンとして設置。また、客室全35部屋には天然温泉半露天風呂が備えられており、テラスからは別府の湯けむりの町並みや別府湾の遠景を一望することができる。
ホテルのエントランススペースには、菌類やバクテリアなどミクロな世界をテーマとした作品を発表してきた青木美歌がガラスを使った作品《Vessel of Genetic Code’1》を展示。別府の地質や断層をイメージしたプリミティブな質感の空間で、透明な作品が輝く。
青木の作品の横には、様々な液体が混ざり合う様子を絵画として制作する「Alive Painting」が代表的な活動である中山晃子の映像作品《Medium》が展示。今年2月に約1ヶ月別府に滞在し作品制作を行った中山は、今回鬼石坊主地獄の熱泥に着目した。
ホテルのロビー・レセプションエリアでは、非日常的な空間をつくり出すインスタレーション作品やパブリックアートを多く手がける大巻伸嗣の作品《Gravity and Grace -ゆだま-》と《Echoes Crystallization》が存在感を放つ。大地の力や記憶を湯玉のかたちで表現した前者は太陽のように光を放ついっぽうで、絶滅種や絶滅危惧種の植物が描かれた後者は、月のように前者の光を反射する。
同じ空間には、写真家・西野壮平が別府の100湯以上の温泉や、風景や日常を撮影した2万枚以上の写真をコラージュして制作した作品《Diorama Map "Beppu" 別府温泉世界地図》と、鈴木ヒラクが別府の湯けむりをモチーフにした新作《ゆらぎから光へ》を展示。ロビーに続く2階の「HOT SPRING BAR」では、写真家・草本利枝が別府の地獄を訪れ、色彩豊かな風景を撮影した写真シリーズを展開している。
いっぽう、ホテル本館に隣接する3階建ての既存住宅を改築したレストラン「THE PEAK」では、画家・勝正光が別府の高崎山山頂植生の葉や中島町出土の別府石を描いた一連の鉛筆素描作品を展示。また、様々な場所に生きる人々の生活や文化に関係した作品を制作してきた島袋道浩は、ホテルの建築現場から出土した石を使った作品《イワオ》を発表。「いつまでも忘れられない体験」をつくることを意識して制作した作品だという。
そのほか、客室には目[mé]または泉イネによる壁紙が施され、レジデンシャルスイートにはネルホルが別府の温泉や森林をモチーフにした作品を設置。そして館内の廊下など数ヶ所には、アート・ユニットのオレクトロニカによる彫刻作品も出現。それらの作品と期せずして出会うことを楽しみたい。
開業に先行して行われた内覧会で、株式会社関屋リゾートの代表取締役・林太一郎は次のように語った。「アートは言葉を超えるものです。アートの力を借りながら新しい魅力をつくりたいです。そして、別府の新しい魅力を世界に発信できることを願っています」。
国内屈指の温泉地でありながら、近年は「in BEPPU」などのアートプロジェクトも展開している別府。そこに新たに誕生したアートスポットとして、GALLERIA MIDOBARUは別府の魅力を一層高めるだろう。