「美術館はコミュニティのリビングルーム」。隈研吾が手がけるオドゥンパザル近代美術館がトルコに開館
日本を代表する建築家である隈研吾が設計を手がけた美術館「オドゥンパザル近代美術館」がトルコの地方都市エスキシェヒルに開館した。プライベート・ミュージアムであるこの美術館に込められた思い、あるいはそこから見える「これからの美術館の姿」とは?
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トルコの首都アンカラと、文化的中心地イスタンブール。この2都市の中間地点にあるエスキシェーヒルに、新たな美術館が開館した。
「オドゥンパザル近代美術館(以下、OMM)」は、トルコの建設業大手ポリメクスホールディングスの代表取締役であり、アートコレクターでもあるエロル・タバンジャが総工費1500万ドルを費やし設立した、プライベート・ミュージアムだ。
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同館を設計したのは、世界各地で美術館建築を手がけてきた隈研吾と、隈研吾建築都市設計事務所副社長である池口由紀。隈は日本において、東京・六本木のサントリー美術館や南青山の根津美術館などを設計。近年では、スコットランドのV&Aダンディや中国・成都の知・芸術館など国外の美術館も手がけており、美術館建築の世界で高い存在感を示している。
そんな隈と池口が設計したOMMとはどのようなものなのか? 「建築」「展覧会」「美術館の役割」という側面から見ていこう。
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美術館はコミュニティのためのリビングルーム
OMMが位置するエスキシェヒルは、トルコのアジア側に位置する、かつて木材市場があった街。その歴史を踏まえて設計された美術館は、木材で覆われたファサードが特徴的となっている。
4500平米規模の美術館は、3フロア構造。エントランスにある大階段や3フロアを貫く吹き抜けなど、内部にも木材がふんだんに使用され、空間が緩やかにつながっているのも同館の特色だ。
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隈はこれまで20ほどの美術館建築を手がけてきたが、その核には「美術館はただアートを鑑賞するための場所ではなく、コミュニティのためのリビングルームになっていく」という考えがあるという。
これは、「ミュージアムはコミュニティに開いていくべきだ」というミュージアム界の風潮ともリンクしている。池口はこう語る。「ビルバオ・グッゲンハイム美術館(スペイン)のように、街とのコントラストを生み出す美術館ではなく、人々が毎日来館できる場所。周辺とのコンテクストを設計の中心にしました」。
美術館の裏には昔ながらの細い道路と伝統的家屋が残り、美術館が街と地続きになっていることなども、この思想の反映だろう。
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同館は、このエスキシェヒルの伝統的家屋にある木材梁からインスパイアされており、隈は「柱や梁による構造という日本家屋との共通点を、建築というかたちで翻訳できれば」と語る。
「建築家はアーティストではなく、コミュニケーターに変わりつつある」。これからの時代における美術館と建築家の関係を示唆するような言葉だ。
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コレクションの形成過程を展覧会で
そんなOMMでこけら落としとなる展覧会「THE UNION」展は、設立者エロル・タバンジャのコレクション1100点のなかから厳選された90点を紹介するものだ。
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本展でキュレーションを務めたトルコ人キュレーター、ハルドン・ドストウルは「建築がキュレーションを誘導してくれた」と話す。「建物を美しく見せ、作品のあるべき姿を見せるため、長期間にわたり展示構成を考えてきました。今回の展覧会では、タバンジャが約20年をかけて形成してきたコレクションの過程をたどることができます。その過程の分岐点と言えるものを中心に選びました」。
出品作は主にトルコのアーティストによる作品によって構成されているが、なかにはマーク・クィンなど海外のアーティストも見ることができる。またジャンルは絵画や彫刻だけでなくメディア・アートにまでおよんでおり、タバンジャのコレクション対象が広範囲であることがわかる。
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そして本展でハイライトとなるのは、コミッション・ワークとして制作された四代田辺竹雲斎の巨大なインスタレーション《CONNECTION-GODAI-》だ。フランスのケ・ブランリ美術館で開催された「空を割く 日本の竹工芸」展(2018)をはじめ、海外でも積極的に活動する田辺。
本作は、約1万本の竹ひごを編み込んだ造形作品。田辺は本作について「展示室の空間をひとつの宇宙としてとらえ、エスキシェーヒルの人々と「地」「水」「火」「風」のエネルギーがつながり、世界に広がっていくというイメージです」と語る。
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作品制作の背景には、エスキシェヒルの街の歴史がある。伝統的でありながら廃れてしまった街を美術館が再生させる、という歴史を自身が身を置く竹工芸の世界とリンクさせ、「新しい表現で世界をつくらないといけない、という同じような立場を発信したかった」という。
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政府が後押しする美術館
この真新しい美術館は、建築だけでなくトルコにおける観光戦略、文化政策の面からも注目されている。
トルコには複数のプライベート・ミュージアムが存在するが、それらの多くはトルコのヨーロッパ側・イスタンブールにある。それらと対照的に、アジア側の地方都市であるエスキシェーヒルに建設されたOMMには、地方振興の点で政府も大きな期待を示す。
その現れとして、9月7日に行われた開会式にはエルドアン大統領も出席。次のようにコメントし、この美術館に対して強い期待を寄せた。
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「(OMMは)我が国全体に波及効果があり、国民にとって価値があります。この美術館を建設する場所としてエスキシェヒルを選んだことは正しい。トルコの(地理的な)中心で文化の発信地であり、美術館のある場所として理想的。世界に向けて発信したい」。
この発言からは、美術館が国の発展にとって欠かせないという考えもうかがうことができる。トルコは2023年までに観光客7500万人の来訪を目指しており、メフメット・ヌリ・エルソイ文化観光大臣は「観光で各国が競争するなか、なんらかの差をつけないと成功できない」とコメント。「芸術も差別化のポイントのひとつ。オドゥンパザル近代美術館も観光戦略のなかで大切な役割を果たすので、全力でサポートしたい」と美術館の重要性を指摘する。
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同館では今後、コレクションを順次入れ替えて展示するほか、国際的なアーティストが滞在制作する場としても機能する予定だという。「多くのコレクターたちにも、作品を見せることの重要性を訴えていきたい」。そう語るタバンジャのプロジェクトは、今後ミュージアムの世界にどのような影響をおよぼすだろうか。
なお、オドゥンパザル近代美術館には隣接するかたちで18年11月にオープンしたホテル「OMM INN」があり、こちらにも作品が飾られている。あわせてチェックしてほしい。
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