東京メモリードホールやサントリー美術館、あるいは現在進行形の品川新駅(仮称)など、数々のプロジェクトを手がける建築家・隈研吾。日本だけでなく、世界各国で活動してきたその軌跡をたどる展覧会が、幕を開ける。東京ステーションで建築家単独の展覧会が行われるのは辰野金吾、磯崎新、高松伸、安藤忠雄、前川國男に続いて今回が6人目となる(同館リニューアル開館後は初)。
本展では、「竹」「木」「紙」「土」「石」「火」「金属」「膜/繊維」という10種類の物質(素材)でセクションを分け、それぞれに代表される作品の模型や写真、映像などを展示。隈建築を物質から紐解いていく試みだ。
例えば「木」のセクションでは、「スターバックスコーヒー太宰府表天満宮参道店」で使用されている実物大のグリッドフレームや、熱海に昨年オープンしたカフェ「COEDA HOUSE」の巨大模型などを見ることができる。
また、2階の「石」セクションでは隈研吾自身、新たな代表作として「形態としても一歩踏み込んだかたちをしている」と話すヴィクトリア&アルバート博物館の分館、「ヴィクトリア&アルバート博物館 ダンディ」の模型とともに、実際にファサードに使用されているプレキャストコンクリートも展示されている。
隈は本展について「大先輩である辰野金吾先生設計の東京ステーションギャラリーは、オリジナルの煉瓦と鉄骨の混合。我々がいまやろうとしている物質の復権、材料の復権(を見せる)にはもってこいの場」だと話す。「毎日細かいことに追われ、自分たちのプロジェクトを振り返る機会がなかった」という隈。過去30年の間に実践されてきた様々な取り組みが並ぶが、これは「コンクリートを使った工業化社会に対して、変わったものを探したいと思って物質と付き合ってきた」その結果だ。
本展で見られる10種類の素材(材料)は、それぞれに特徴的だが、「材料はビジュアルだけでなく、五感に訴えることが面白い」と言う。実際、会場には模型だけでなく、実物素材も展示することで、それぞれの材料が放つ匂いや質感を感じることができるのも本展の大きな特徴だ。
約80のプロジェクトを通じて、隈研吾が実践してきた物質との対話と、その成果をぜひ体験してほしい。