「瀬戸内国際芸術祭2019」夏会期がスタート。日本最大級の国際芸術祭の見どころとは?
3年1度に開催される日本最大規模の国際芸術祭「瀬戸内国際芸術祭」。7月19日から、芸術祭の夏会期が始まる。夏の新作のなかから、いくつかの作品をピックアップして常設作品とともに、レポートで紹介する。
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瀬戸内海の島や周辺港を会場に、3年おきに開催される日本最大規模の国際芸術祭「瀬戸内国際芸術祭」。『ニューヨーク・タイムズ 』をはじめ、世界中のメディアで取り上げられたこの芸術祭が、今年も開催されている。
「海の復権」をテーマに、春・夏・秋に分かれている今年の芸術祭では、塩田千春やレアンドロ・エルリッヒ、グレゴール・シュナイダー、宮永愛子など32の国と地域のアーティストによる214点の作品と35のイベントが、直島、豊島、女木島、男木島など14会場で展開。そのなかから、常設作品と7月19日から始まった夏会期の新作をいくつかピックアップし、芸術祭の見どころを紹介する。
直島
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「現代美術の聖地」とも言われる直島。草間彌生の《赤かぼちゃ》(2006)と《南瓜》、藤本壮介の《直島パヴィリオン》(2015)、妹島和世+西沢立衛/SANAAが設計した《直島港ターミナル》(2017)、安藤忠雄が設計した地中美術館やベネッセハウス ミュージアムなどは、まさに直島の象徴的な存在だ。
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直島・本村地区で点在する空き家などを、宮島達男、杉本博司、千住博などのアーティストが改修して作品化した、現代美術のインスタレーションの常設展示である「家プロジェクト」も必見だ。現在、直島で公開されている7軒の「家」は様々な特色を持つ。寺の跡地に安藤忠雄が設計した木造建築「南寺」。その中には、ジェームズ・タレルによる《バックサイド・オブ・ザ・ムーン》(1999)がある。暗闇の中で、次第に視覚が研ぎ澄まされ、光が見えてくること体験をしてほしい。
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「もの派」を代表するアーティスト・李禹煥と建築家・安藤忠雄のコラボレーションによる美術館「李禹煥美術館」では、1970年代から現在までの、自然石と鉄板の組み合わせによる彫刻作品や、響き渡るような余白を残した絵画作品などが展示されている。海と山に囲まれた谷間に、半地下構造で建つ同館では、自然、建物、作品を同時に楽しむことができる。
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宮浦港周辺にある、大竹伸朗が銭湯の外観や内装、そして浴槽、風呂絵、モザイク画、トイレの陶器などをデザインした美術施設《直島銭湯「I♥湯」》(2009)では、大竹の作品世界を堪能しながら入浴することができる。
女木島
女木島は「鬼ヶ島」とも呼ばれており、山頂一帯にある大洞窟は有名。今年の開催では、レアンドロ・エルリッヒや宮永愛子、山下麻衣+小林直人などのアーティストが女木島で展開する「島の中の小さなお店」プロジェクトが、開催前から人気を集めている。このプロジェクトは、島の住人たちにとっては便利で、他所からの来島者にとっては特色あるスポットをアーティストが企画し、作品にするもの。
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レアンドロ・エルリッヒの《ランドリー》(2019)は、洗濯物が回転する映像が流れる洗濯機のインスタレーションと、実際に使える洗濯機と乾燥機を空間の両面に設置。現実と虚構を混在させることで、日常生活のなかの馴染み深い風景を考えさせる。
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また、宮永愛子が美容室を改修した《ヘアサロン壽》(2019)では、従来のヘアサロンと異なり、光や風を受けて形を変える波を目の前にすることで、椅子に座る鑑賞者が自分のイメージを変えることができる。加えて、中里繪魯洲の《un… こころのマッサージサロン》や山下麻衣+小林直人の《世界はどうしてこんなに美しいんだ》(いずれも2019)など、このプロジェクトのすべての作品は、実際に体験・利用することができる。
男木島
坂道に沿って集落が広がる男木島では、空き家を使って制作した作品が数多くある。サラ・ヴェストファルによる光と映像のインスタレーション《うちの海 うちの見》(2019)や、村山悟郎が築90年の建物の内壁を埋めつくした壁画作品《生成するウォールドローイング -日本家屋のために》(2019)など今年の新作に加え、夏会期からはグレゴール・シュナイダーの《未知の作品2019》と遠藤利克の《Trieb-家》(いずれも2019)も公開されている。
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島内の空き家とその庭を真っ黒に染めた《未知の作品2019》では、周囲から隔絶されたような空間をつくりだしている。焼失した廃墟のような空間のなか、不在と存在との関係性、既存の歴史と未知の未来について考えさせる。
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朽ち果てた廃屋を会場とする《Trieb-家》では、空き家のなかにある家具や構造を無造作に残し、生命を象徴する「水」を媒介としてその空間を貫く。鑑賞者は廃屋の玄関付近に入り、部屋に残されている記憶や時間の跡と、水が表す新たな生命力を鑑賞したい。
大島
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「国立療養所大島青松園」がある大島では、その歴史や記憶を振り返るための作品やプロジェクトが展開している。例えば、夏会期の新作となるやさしい美術プロジェクトの《稀有の触手》(2019)は、ハンセン病回復者の姿をとらえる作品のひとつだ。大島の歌人・斎木創の歌「唇や舌は麻痺なく目に代る稀有の触手ぞ探りつつ食う」からインスパイアされた本作では、島内の回復者たちがカメラや自助具を使う様子を映した写真や、彼らが使った生活用具を展示している。
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また、かつて自由を求めて大島から対岸の庵治町へと海を泳いで渡ろうとした患者たちの経験をもとにした作品は、山川冬樹の《海峡の歌/Strait Songs》(2019)。庵治海岸から大島へ、海峡を泳いで渡る山川のパフォーマンスを記録したふたつのビデオ・インスタレーションを展示。映像のなかでは、大島の歌人や庵治の子供が詠んだ短歌の声も流されている。
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そのほか、豊島には現在東京の国立新美術館とエスパス ルイ・ヴィトンで個展を行っているクリスチャン・ボルタンスキーの《ささやきの森》(2016)や、代表作のひとつである《心臓音のアーカイブ》(2010)などもあり、この機会にあらためて訪れてみたい。
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なお、芸術祭の参加展覧会として宮永愛子の個展「漕法」が高松市美術館で開催。高松港周辺では、ジュリアン・オピーの《銀行家、看護師、探偵、弁護士》(2015)をはじめとする常設作品に加え、瀬戸内の海や工芸品、特産品などに焦点を当てる夏会期の新作群「北浜の小さな香川ギャラリー」も展開されている。
秋会期には瀬戸内海西側の本島、高見島、粟島、伊吹島に新しい作品やプロジェクトも登場。瀬戸内の海、自然、アートを満喫できる機会をお見逃しなく。