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NEWS / REPORT - 2019.7.22

こけら落としは「石川コレクション展」。ニコラ・ブリオー率いる現代美術の新エコシステム「MO.CO.」とは何か?

この夏、南フランスのモンペリエで、美術理論家のニコラ・ブリオー率いる文化政策「Montpellier Contemporain」(モンペリエ・コンタンポラン、通称「MO.CO.」)が本格始動した。世界の現代美術コレクションと協同する展覧会スペースも有するこの政策が目指す、新たな「アートのエコシステム」とは何か? こけら落とし展となった「石川コレクション展」の様子とともにレポートする。

文=飯田真実 取材協力=䑓丸謙

「オテル・デ・コレクション」入口。改装は建築家のフィリップ・シャンバレッタ、世界の5大陸に見立てた庭と噴水はアーティストのベルトラン・ラヴィエによるもの Photo by Mami Iida

「MO.CO.」とは何か

 6月29日、地中海沿岸の街モンペリエは43度の記録的猛暑となった。パリから南へ新幹線で約3時間、人口は約45万人でフランス国内では第7位の規模だが、その5割が34歳以下の若者という学園都市に、新しい公立現代美術館「オテル・デ・コレクション」がオープンした。これは2014年に就任したフィリップ・ソレル市長が、この街に創造性や国際性をもたらすために進めてきた現代美術による文化政策、その名も「Montpellier Contemporain」(モンペリエ・コンタンポラン、通称「MO.CO.」)の本格始動を意味する。ディレクターを務めるのは、パリでパレ・ド・トーキョーを立ち上げ、国立高等美術学校の学長も経験したニコラ・ブリオーだ。

館内のレストランのバーには、ロリス・グレオーによる音とネオンの作品《Idole Mode》が設置されている Photo by © Marc Domage

 ブリオーは2016年からMO.CO.を準備しながら、モンペリエ美術学校と連携する1000平米ほどの展示スペース「ラ・パナセ」の芸術監督として企画展を開催してきた。今回、高速鉄道の駅から徒歩数分という好立地に、ラ・パナセの2倍の展示スペースを持つ「オテル・デ・コレクション」が誕生。MO.CO.がモンペリエ美術学校、ラ・パナセ、オテル・デ・コレクションの3つを統括し運営することで、アーティストの育成と展覧会という実践の場に世界の公私コレクションをつなぎ、現代美術のエコシステムを構築することを目指す。

 3つはそれぞれ市内の徒歩圏内にあり、MO.CO.がモンペリエの街中で展開するアートプロジェクト「100 artists in the city」(〜7月28日)の作品も楽しめる。

「ラ・パナセ」入口。現在はローマ21世紀美術館MAXIIからの巡回展「The Street. Where the World Is Made」を無料で見られる
ファーブル美術館中庭に設置された「100アーティスト」参加作家・荒川医の《Fortune (Gustave Courbet, La rencontre, 1854) 》 Photo by Mami Iida 

「Intimate distance. Masterpieces from the Ishikawa Collection」展

 オテル・デ・コレクションでは、優れた特徴を持つ世界の現代美術コレクションから作品を借り、年に3回の企画展を行う。その記念すべき開幕展に、日本国外では初めてまとまったかたちでの発表となる「石川コレクション」が選ばれた。

 2011年にストライプインターナショナル代表取締役社長・石川康晴がスタートさせた同コレクションは、ブリオーが1998年にまとめた『関係性の美学』とも親和性がある、コンセプチュアル・アートの系譜にある作品を幅広く収集している。本展のゲスト・キュレーターは、東京藝術大学大学院教授としてブリオーと学術交流もあった長谷川祐子が務め、所蔵作品から代表的な18アーティストによる33点を選定。アーティストがその表現行為において、主題やメディウムとの間にとる「親密な距離」に注目した。

ライアン・ガンダー Ftt, Ft, Ftt, Ftt, Ffttt, Ftt, or somewhere between a modern representation of how a contemporary gesture came into being, an illustration of the physicality of an argument between Theo and Piet regarding the dynamic aspect of the diagonal line and attempting to produce a chroma-key set for a hundred cinematic scenes 2010 Photo by Mami Iida 

 改装された洋館のミニマルな空間の連なりのなかで、ライアン・ガンダー、マルセル・ブロータス、フェリックス・ゴンザレス=トレスの平面や立体作品が順番に鑑賞者を迎える。斜線を描く大量の矢、イニシャル、2つの電球などの曖昧な象徴を、作品タイトルや美術史、アーティストの略歴などから解いていく。

 そして静かな会場を進むと、アンリ・サラやハルーン・ミルザによる作品が非言語の抽象化された音と視覚表現として空間に響き映り、鑑賞者は新たなコミュニケーションを体験する。ピエール・ユイグやレイチェル・ローズの映像作品、下道基行の写真シリーズ、サイモン・フジワラのインスタレーションも展示されている。

ハルーン・ミルザ Backfade _5, (Dancing Queen) 2011 Courtesy Galerie Lisson, Londres © Haroon Mirza
Photo by © Marc Domage

 リアム・ギリックによる《The anyspace whatever》(2010)のタイトルにもなっている言葉が大きく掲げられた通路の向こうにある展示室に入ると、本展で中心的な位置付けにある河原温の「Date Paintings」シリーズが並ぶ。描かれた日付は、アーティストやコレクターにとって大切な時を刻むと同時に、その日に世界で起きた出来事とともに拡大された視野の中で生を記憶しようとする行為でもある。

河原温 Date Paintings 1994 Courtesy Musée national d’art moderne, Tokyo Photo by Marc Domage

モンペリエと岡山の「親密な関係」

 これら石川コレクションの作品を日本国外で初めて発表することに承諾した石川康晴は、岡山を拠点とする石川文化振興財団の理事長。今年9月には自身が総合プロデューサーを務める「岡山芸術交流2019」を行うことが決定しており、「Intimate distance.」展のオープニング・セレモニーには同芸術祭で総合ディレクターを務める那須太郎とともに参加した。

 石川は本展開催の背景について、「『石川コレクション』を評価してくれ、単独での展示だったので快諾しました」と話す。「岡山には、日本で最初の西洋美術中心の私立美術館(大原美術館)があり、瀬戸内海には瀬戸内国際芸術祭もある。アプローチは違いますが、多様な環境で現代美術を見せ、市民の創造力を掻き立てるモンペリエと岡山に類似点を感じ、地方発信の優れた芸術文化事業として支援することを決めました。長谷川さんが代表作を選んでくれ、展示としても大変気に入っています」。

レイチェル・ローズ Lake Valley 2014 Courtesy the artiste, Galerie Pilar Corrias, Londres and Gavin Brown’s entreprise, New York
Photo by ©Marc Domage

 いっぽう那須も、モンペリエと岡山の類似性を指摘する。「市内の既存文化施設との連携や街中で展開される規模感も岡山と似ていますね。古き良きものを残しながらリノベーションし、そのなかでコンセプチュアル・アートの展示を開催することに行政が協力していることが驚きです。ソレル市長とブリオーさんの存在・貢献によることが大きいのでしょう」。

 今回の展覧会を機に、石川コレクションはモンペリエと持続的なコラボレーションを行ってくのだろうか? これについて石川は前向きな考えを示した。「モンペリエと岡山との姉妹都市提携を進めていくことができればおもしろいかもしれません。まだお披露目できてない作品が多数あるので、今後も国内外からの企画展のオファーには積極的に応えていきたいですね」。

 現代美術教育の拡張のなかで企業協賛とはいったん距離を置き、市民の賛同と公的資金でオープンした同美術館。同時に、パリを経由せず世界のコレクションと直接協同した展覧会を持続的に開いていく。この環境で感化されていくモンペリエ発の今後の創造に期待したい。

左から、長谷川祐子、ニコラ・ブリオー、石川康晴、フィリップ・ソレル、那須太郎 Photo by 石川文化振興財団