21_21 DESIGN SIGHTの「フランク・ゲーリー展」(2015-16)をはじめ、東京国立近代美術館の「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(2017)、国立新美術館の「安藤忠雄展―挑戦―」(2017)、そして東京ステーションギャラリーで開催中の「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」展(5月6日まで)など、建築をテーマにした展覧会が目立つ昨今。森美術館では、日本の建築全体をテーマにした展覧会が始まった。
その名も「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」と題された本展は、「可能性としての木造」「超越する美学」「安らかなる屋根」「建築としての工芸」「連なる空間」「開かれた折衷」「集まって生きるかたち」「発見された日本」「共生する自然」の9つのコンセプト(章)で構成。
日本の古代、古典建築の特徴を分析し、その「遺伝子」がいかに国際的に広がっていったのかを、100のプロジェクト、400の展示物を通して概観するものとなっている。
森美術館館長・南條史生は、本展を「満を持してつくった展覧会」だと話す。「タイトル通り、建築が日本を代表するという意味を込めています。海外でも多くの建築家が活躍する理由はなんなのか? 日本の建築の特徴は何で、どのように広がっているのかという問いから本展は始まりました」。
会場に入ると、迎えてくれるのは檜の香り。ミラノ国際博覧会2015日本館のためにつくられた北河原温の《木組インフィニティ》だ。国土の7割が森林に覆われた日本において、古来より日本を代表する建築素材である木。「可能性としての木造」では、古代神話の舞台である出雲大社本殿から、江戸時代の会津さざえ堂などの木造建築がズラリと並ぶが、磯崎新が東大寺南大門から構造を参照した「空中都市 渋谷計画」の200分の1模型など、木造の文脈に沿った建築(プロジェクト)もここでは紹介されている。展覧会の冒頭から、ボリュームある模型群で見せ場をつくっている印象だ。
もちろん、見どころはほかにも多数ある。もっとも注目すべきなのは、国宝《待庵》の原寸大再現だ。
《待庵》は、千利休が1581年頃に大山崎在住中に建てたといわれる小間の茶室。この茶室が東京の街を見下ろす展示室に再現された。本展共同企画者で、森美術館美術館建築・デザインプログラムマネージャーの前田尚武は「美術館の使命として、単純に体験できるための空間ではなく、ものつくり大学との共同研究として制作しました」と説明。総勢50名が関わったという本作は、釘の1本まですべてが手づくり。《待庵》の特徴でもある二畳の茶席やにじり口など、細部にわたって再現されている。
このほか、ハイライトとなるのは現存しない丹下健三の自邸を3分の1スケールで再現した巨大模型。単なる模型ではなく、「小さな建築」として制作されたという本作は、遺族へのヒアリングをもとに図面を制作。小田原の宮大工たちの手によって、本物の建築同様の手法でつくられている。内部空間をのぞいてじっくり鑑賞したい作品だ。
また、齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャーは、様々なサイズのモジュールを体験型インスタレーション《パワー・オブ・スケール》として表現。最新技術のレーザーファイバーと映像によって、電話ボックスから茶室や中銀カプセルタワーまで、古今の日本建築における空間概念を、実物大のスケールで投影する。
なお、本展ではブックラウンジを展示室内に併設。丹下健三が手がけた香川県庁舎のマガジンラック付きベンチをはじめ、長大作による五色台少年自然センターの椅子など、ふだん東京では見ることができないモダニズムの名作家具を体験することができる。
古今の日本建築を、建築の文脈(コンテキスト)によってキュレーションした本展。会場デザインにも工夫が見られ、各展示室の上部(3メートル以上)には建築の専門知識がなくとも楽しめる概要を、中部(1〜3メートル)には展示の核となる資料を、そして下部(1メートル以下)にはキャプション等の細かな情報が示されており、鑑賞者はそれぞれの興味・関心に合わせた様々な見方ができる。
まるで日本建築の教科書のような本展。日本の建築とはなんなのかをあらためて考えながら、会場を巡りたい。
※8月20日追記
森美術館は8月17日に同展の入場者数が40万人を突破したことを発表した(六本木ヒルズ展望台 東京シティビューとの共通チケット)。