資生堂ギャラリーが2006年にスタートさせた新進アーティストの活動を応援する公募展「shiseido art egg」は、毎年3組のアーティストを選出し、個展形式で展覧会を開催してきた。11回目を迎えた今年は、そのグランプリである「shiseido art egg賞」に古布に刺繍を施した作品を見せた沖潤子が決定した。
今年の「shiseido art egg」で個展を開催したのは吉田志穂、沖潤子、菅亮平の3名。吉田はインターネットやスマートフォンによってデジタルイメージが身近な存在になった現在における新たな写真の可能性を探求、菅は美術館やギャラリーに特有な展示空間「ホワイトキューブ」をモチーフに、ギャラリーの中に虚構のイメージを立ち上がらせた。
そして「shiseido art egg賞」を受賞した沖潤子は、古布と自身の記憶を重ね合わせるように、布に自己流の刺繍を施した作品を発表。一針一針に込められた熱量を感じさせる展覧会を見せた。
今回の「shiseido art egg」では、すべての会期終了後に初の試みとなる公開の対話型審査会を実施。3作家と審査員の岩渕貞哉、宮永愛子、中村竜治が一つのテーブルを囲み、作家への質疑応答を行いながら審査を進めた。
写真、刺繍、そしてコンセプチュアル・アートと、ジャンルや表現手法が大きく異なる3作家を、どのような基準によって評価するのか。この点に注目が集まったが、今回は展示の完成度に加え、展示から感じられる様々な要素をどの程度考慮するべきかが論点となったという。
審査評では展示の完成度という点において、細部まで緻密に構成した菅が頭一つ抜けていたとするいっぽう、吉田については、多様な技法で新しい写真表現を模索するチャレンジングな姿勢が見られたとのこと。
受賞した沖は、作品からあふれでる想いや情熱が、観る者に強い印象を与えたこと、増殖するような刺繍の迫力と凄み、作品から溢れ出てくる熱量の高さに加え、美術という領域を拡大し得る可能性を秘めていると考えられることが決定要因になった。
なお、次回「第12回 shiseido art egg」は11月1日より募集がスタート。伊藤俊治(東京藝術大学教授/資生堂ギャラリーアドバイザー)と光田由里(美術評論家/資生堂ギャラリーアドバイザー)を審査員に迎え、新たな才能を発掘する。