「印刷と幽霊」展で探究する、写真の自由さと不確かさ。吉田志穂×小池俊起 対談【3/3ページ】

「複製性」の不思議を探究する

小池 吉田さんが、素材や手法に対して「こうでなければならない」というこだわりを持たず、いつも可変性に満ちた創作態度をとれるのはなぜなのですか。

吉田 写真を学ぶ大学に通っていた3年生くらいまでは、写真に対して頑なで、いい景色を探して適正な撮影をし、ゼラチンシルバープリントをいかに美しくつくるかだけを考えていました。しかしあるとき、とある教授に、画面の絵づくりやプリントのクオリティばかり追い求めても、それは「モダニズムの砂漠」だと言われたんです。行き着くところがないぞといった意味だと解釈して、それからは作品にパーソナルなコンセプトになり得る要素、例えばインターネットの画像検索やGoogle Mapなどを取り入れるようになっていきました。すでにあるルールに則って競ったとしても先人に勝てそうにないので、できるだけ形式にとらわれないようにと決めて、ようやくいまの状態までになることができました。

小池 今回の展示では、作品制作の延長で告知物の制作にもあたりました。出品作品も広報物と同じ印刷物なので、作品として生まれた印刷物が、ほぼそのまま告知物にもなり得るということを、本展における重要な視点として意識的に実践しています。チラシ・ポスターは、作品の上から文字情報だけ銀色のインキであとから刷っています。

吉田 そうですね、本展では広報物も含めて作品のコンセプトを表すものと考えています。そこまでひっくるめて作品であると言えるようにしたかったんです。展示されている作品は触れることも持ち出すことも許されていないのに、同じイメージを刷ったチラシは自由に持って帰れます。つくり方は同じなのに用途によって扱いが変わるというのはおもしろいことで、そこから複製性の不思議を感じ取ってもらえたらと思います。

広報チラシ 撮影=加藤健

小池 そういうところまでごく自然に考えさせるのが、吉田志穂作品の魅力のひとつです。今後の吉田さんの創作は、どう展開するのでしょう。印刷や幽霊というテーマはまだ探究していくのですか。

吉田 2014年の「1_WALL」の展示からちょうど10年経ち、少しずつ新たなメディアや手法を使えるようになってきました。今回の「印刷と幽霊」ではあえて写真用紙を使わずに、版と印刷用紙だけで写真をどう見せていくかという挑戦でしたが、素材や物質への探究も今後さらに積極的に行いたいと思っています。幽霊というテーマも掘り下げていく余地がたくさんありそうだと感じています。写真という表現は、まだまだ自分の知らない可能性を持つものだと思うので、今後も色々と試しながら新しい展開を探っていきたいですね。

編集部

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