近代工芸の巨匠・香取秀真。松本市美術館で見るその哲学【3/4ページ】

草間彌生の代表作や初期作品が楽しめる特集展示

 香取秀真とともにぜひ見ておきたいのが草間彌生だ。松本市は、世界中で絶大な人気を誇る草間彌生の生誕地としても知られており、松本市美術館では世界的にも屈指の草間の常設作品展示を鑑賞することができる。

 同館は、2002年の開館時から草間の多くの作品を所蔵し、展示を行ってきた。21年に行われた大規模改修工事を経て、現在も「草間彌生 魂のおきどころ」というタイトルのもと、草間の代表作を通年展示している。この展示は年に4回の展示替えが行われており、最近の展示替えでは、草間の彫刻や初期の平面作品が更新され、訪問者に新たな視点を提供している。

 例えば、《月の夜》(1985)と題された作品は、草間がニューヨーク時代に取り組んだソフト・スカルプチャーと、日本で再び重要なモチーフとなった植物が組み合わさったもの。草間にとって植物は幼少期の記憶や日本の自然に根ざした大切なテーマであり、詰め物をした突起物状のソフト・スカルプチャーが集合し、ペイントされたこの作品は、草間が生まれ育った環境とニューヨークでの経験が融合したものであり、その創作の軌跡を感じさせる。

展示風景より、《月の夜》(1985) All images © YAYOI KUSAMA ※画像転載不可

 また、草間の初期作品も今回の展示替えで新たに公開されている。19歳頃に描いた《花の精》(1948頃)や紙に描かれた《(無題)》(1952)などは、草間の若い頃の技法や表現が垣間見られる貴重な作品であり、縁取るような描き方は現在の作品にも共通する手法として続けられている。

 草間がニューヨークから日本に帰国し、心身ともに疲弊していた時期に制作したコラージュ作品《闇に埋れる我青春》(1975)は、その心象風景や苦しみがリアルに表現されている。2010年の作品《燃え上がる恋の記録》には、草間の20代前半の松本時代から共通するテーマである「渦巻くイメージ」が描かれており、このテーマは、草間の制作姿勢が現在まで脈々と続いていることを象徴し、幼少期の記憶や純粋な表現が現在の作品に影響を与えている様子が見てとれる。

展示風景より、右は《燃え上がる恋の記録》(2010)。左は初期作品群

編集部

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