2024.5.24

me ISSEY MIYAKEのSTRETCH PLEATSから生まれる、動きのデザインとそのかたち

東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3で、特別展示「Focus on STRETCH PLEATS」が6月23日まで開催されている。2000年にスタートしたブランド「me ISSEY MIYAKE」を代表する素材「STRETCH PLEATS」を新しい視点で表現した展示だ。本展をディレクションしたグラフィックデザイナー・岡崎智弘に話を聞いた。

文=中島良平 写真提供=ISSEY MIYAKE INC.

「Focus on STRETCH PLEATS」展の展示風景より
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 縦と横に施された細かいプリーツが特徴的なSTRETCH PLEATSは、me ISSEY MIYAKEが20年以上にわたって展開してきた、ブランドのアイコンとも呼べる素材だ。全方向への伸縮を特徴とし、誰もが自由に楽しく着こなせる衣服をつくりだすこの素材を新しい視点で表現すべく、me ISSEY MIYAKEが特別展示「Focus on STRETCH PLEATS」(〜6月23日)を東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3で開催している。

 ブランドが展示ディレクターとして声をかけたのは、グラフィックデザイナーの岡崎智弘だ。「縦と横にプリーツを加えたSTRETCH PLEATSという素材の、加工方法をどう展示し、鑑賞者に体験していただくか」という、とてもシンプルなお題を提示されたと岡崎は話す。

会場にて丁寧に話す岡崎智弘

 「実際に触れてみると、ポヨンポヨンと柔らかく軽い感じがするので、どのような構造でその質感が生まれているのかに着目しました。縦と横にプリーツがかけられているその構造を知りたくて、実際に加工の過程を見せていただきました。生地を紙のような素材で挟み、まず縦方向に1回、次に横方向に1回プリーツをかけます。その深さが異なり、縦方向にはかなり深く折り込んであり、横方向は緩やかな山なりです。そうして縦と横にプリーツをかけて生まれる構造はグリッド状になっているので、そのグリッドをひとつの単位として取り出そうと考えました」。

「Focus on STRETCH PLEATS」展の展示風景より

 STRETCH PLEATSの特徴は、縦と横にプリーツ加工を施し、二重に折り重なった構造をつくることで、生地に伸縮性をもたせていること。ストレッチ素材の布を用いているわけではなく、あくまでも構造がストレッチを生み出している。その構造を観察すると、縦と横の二重折りがマス目となり、たくさんのグリッドが連なっているように見えるので、単位で分解したその部分を便宜上「グリッド」として説明したい。

 展示室に入ると、リズミカルな音が響いている。STRETCH PLEATSの製造プロセスを収めた映像が入口で流されており、そのリズムはプリーツマシンが生み出したものであることがわかる。映像で縦と横にプリーツ加工をするプロセスを確認したら、展示室内に向かい左手の展示台へ続く。プリーツ構造を可視化すべく、「ひとつの構造」から生まれる動きを観察するために紙でつくった「動きの模型」だ。だがあくまでも岡崎は、「構造を解体し、紐解くことが目的ではない」と強調する。

右はSTRETCH PLEATSの製造プロセスを収めた映像
プリーツ構造を可視化した「動きの模型」

 「実際の服は布なので、ディテールは異なりますが、純粋に縦方向の動きをひとつの模型で、横方向の動きをもうひとつの模型で示しています。その動きがクロスすることで、柔軟に縦横斜めに動きが生まれる構造となっていることが見えてきます。STRETCH PLEATSのつくり方を知ることが目的のリバースエンジニアリング的な発想ではなく、その構造の見方を知ることで、新しいものづくりの発想が生まれるのではないかと考え、今回の展示を考えました」。

 中央の展示台には、実際に製品となっているme ISSEY MIYAKEの衣服と、STRETCH PLEATSのプリーツの幅を段階的に変えることで、どのような質感の変化が見えるのかを試すコンセプトモデルが展示されている。縦と横が組み合わさったプリーツの「グリッド」のピッチが変わることで、プリーツがどう振る舞うのかを実験的に可視化しようという意図の展示だ。

STRETCH PLEATSのプリーツの幅を段階的に変えたme ISSEY MIYAKEの衣服展示
プリーツがどう振る舞うのかが可視化されている

 そして展示室奥のスペースでは、縦と横のプリーツ構造の組み合わせから生まれる、形や動きのバリエーションを提示するコンテンツとなっている。

 「『動きの模型』のようなものは、頭では想像できるけど、それを実際に紙で物理的に試してみると、じつは複雑なことが起こっていることがわかってきます。STRETCH PLEATSの構造という漠然としたテーマからスタートし、手作業を続けることで、頭での想像だけでは追いきれない部分があることがわかりました。言語化できない動きのかたちのようなものが、手で“観察”することで身体的に把握できるようになるんです。その積み重ねから応用して、コンセプトの言葉などからは発生しない、いろいろな折れ線を試し、そこから生まれるかたち、構造を提示することができたと思っています」。

展示風景より

 岡崎はグラフィックデザイナーとして、キャリア当初はおもに印刷物のグラフィックデザインに携わってきたという。あるときにポスターをつくろうと考えてデジカメで撮影を続けた。撮影した画像を確認するためにコントロールホイールをぐるぐる回したら、モニターに映る画像がパラパラマンガのように素早く切り替わり、コマ撮りアニメーションそのものではないかと実感したという。それを機にコマ撮りアニメーションの制作を始め、NHKの教育番組「デザインあ」にも携わるようになった。

紙で試した様々な構造
9つの紙の構造をリアルタイムで撮影し素早く切り替えることで、左のモニターでコマ撮りアニメーションのかたちで展示している

 「番組では、対象物をバラバラにする過程をコマ撮りで収め、その被写体となるものの構造を観察する『解散!』という映像コンテンツの制作に10年ほど携わりました。それをきっかけに、デザインの仕事で大事なのは、構造をとらえることなのではないかと考えるようになったのです。グラフィックデザインもプロダクトデザインも一緒で、具体的なオブジェクトとしてのものにしろ、概念的なことにしろ、そこには構造があって、掘り進んでいくとその構造が見えてきます。コマ撮りを一生懸命やると、ものに触れて撮影を続けるので、そのことが本当によくわかるんですよ」。

 そうした岡崎の意識は、me ISSEY MIYAKEのSTRETCH PLEATSの構造に迫ろうとするアプローチにはもちろんのこと、展覧会を構成するためにどのようにコンテンツを並べ、編集するかという展示構成からも感じられる。「自分の表現を面白いとは思っていなくて、この世界にあるあらゆるものが面白いので、それに触れられる視点をもち続けたい」と語る岡崎智弘と、me ISSEY MIYAKEチームが協働して生まれた「Focus on STRETCH PLEATS」の展示に足を運び、デザインの丁寧な構造分析と、そこから生まれる新たな発想の展開を味わってほしい。

展示風景より