兵庫県立美術館で、中国人アーティスト・葉凌瀚(イェ・リンハン)の個展「Yi - Alice」が開催されている。会期は4月16日まで。
イェは1985年中国浙江省生まれ。絵画や映像など幅広いメディアを駆使した作品では、AIやビッグデータといった現代テクノロジーをアート制作と融合させ、独自の芸術言語と思考を発展させてきた。その作品には、複数のレイヤーや色、かたちの組み合わせによって、強い視覚的インパクトとリズム感が生み出されているいっぽう、現実世界と仮想世界の融合、複数のアイデンティティの共存も反映されている。
近年の個展には、「From Disappearance to Disappearance」(HdM Gallery、パリ、2022)、「Lucy Finale: Cyber Sketching, Recommended for You, Maximalism」(SPURS Gallery、北京、2021)、「Lucy Episode 3: Replication」(HdM Gallery、ロンドン、2018)、「Lucy Episode 2: Dance, Tattoo, Data Carnival」(Boers-Li Gallery、北京、2018)、「Lucy Episode 1: Lucy Lucy」(Vanguard Gallery、上海、2018)など。
2016年、ドキュメンタリー映画『ホモ・サピエンス』に触発されたイェは、初期人類の祖先である「ルーシー」をシリーズの主人公に据え、テクノロジー、未来的な美学、芸術の歴史についての議論を様々な媒体を通して表現した。スクリーンショットを通じてウェブ上の素材を幅広く収集し、「スクリーンから作品を制作する」というコンセプトのもと、デジタルマニピュレーションを用いてこれらのイメージを作品化し、断片化され、歪み、まばゆいばかりの画面は、デジタル時代のスペクタクル社会に呼応している。
今回の個展は2部構成で、ペインティングと映像シリーズ「LUCY」、最新作の大型ペインティングシリーズ「Yi - Alice」など、過去8年間に制作した代表作19点が集結。「Yi - Alice」シリーズの新作である長さ12メートルの《Yi, Nine-Colored Deer, Fire》は、敦煌の古代壁画に描かれた同名の神話上の生き物からインスピレーションを得たもので、付随する白い人物は、アーティストが出会った様々なグループの切り抜きだという。
本展について、文化研究者である山本浩貴は次のコメントを寄せている。「イェの芸術実践には、ポスト・インターネット時代の美学とプレ・インターネット時代の美学が密やかに、しかし明確に混在している。そのことは彼の絵画に、たんにデジタルネイティブ世代の現代作家による新しいテクノロジーを駆使してつくられた作品という平凡な枠組みから逸脱する特異性を加味する。コロナウイルスのパンデミックを機に技術をめぐる論争が盛り上がるいま、日本でイェ・リンハンの作品が展示され、さらなる対話が展開されていくことを嬉しく思う」。