2016年、22の国と地域から85組のアーティストが参加して行われた「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭 」で延べ77万人以上(主催者発表)を動員した茨城県県北地域。この地域では18年度より、アートを活用した地域主体のまちづくりを促進するために、地域おこし協力隊制度を活用した若手アーティストの活動支援や、アーティストの短期滞在型アートプロジェクト等に取り組む「県北芸術村推進事業」に取り組んでいる。
この一環として行われているのが、アーティストが県北地域に短期滞在して作品を制作する「交流型アートプロジェクト」だ。
同プロジェクトでは、県北地域外から3名のアーティストを招へい。アーティストは、約1ヶ月間それぞれに滞在拠点をもち、地域との関係を深めながら制作活動を地域の人々とコミュニケーションを取りながら行う。今年度は、飯川雄大、三田村光土里、渡邊拓也の3名が参加。それぞれ異なるプロジェクトを展開する。
この3名のうち、今年1月20日から2月18日まで日立市を拠点に滞在制作を行っている渡邊拓也が、個展「隣の人の肩にのる」でその成果を発表する。
渡邊は1990年東京都生まれ。2016年東京藝術大学大学院美術研究科を修了。調査や聞き取りを通して出会ったある個人の境遇を取り上げながら、逆説的に社会の構造や力を明かすような映像インスタレーションを制作している。
渡邊は19年9月から12月までの約3ヶ月、茨城県守谷市を拠点とするアーカスプロジェクトのアーカススタジオに滞在。守谷市に隣接する常総市の日系ブラジル人コミュニティに関わり、日系ブラジル人三世の「ユウゾウさん」と出会った。この出会いをきっかけに制作した《Good luck on your journey》(2019)で、渡邊は「日系ブラジル人が見た日本社会」を映像で表現。日系ブラジル人への見えない日本文化からの外圧と、その解放を試みた。
渡邊はこのアーカスプロジェクトでの滞在を経て、1月20日からは日立市で滞在制作を行っている。
かつては日立鉱山があり、今も東日本有数の工業集積地として知られる日立市。日立鉱山では家族主義的な経営思想からユートピア的共同体が実現されていた。渡邊は当時のことをリサーチする中で、たとえ外国人労働者であっても分け隔てなく共同体の一員として扱われていた事実と出会い、当時働いていた人々の見つめた世界に注目している。
「隣の人の肩にのる」展では、《Good luck on your journey》のほか、巨大工場で働く工員に聞き取りをして制作した《工員K》(2017)や、大都市の郊外で暮らす一家の破局の物語を語り直した《弟の見ていたもの》(2018)などに加え、この滞在を経て、構想している作品のスタディなどを発表する。