光の水脈 ジョン・ヘリョン《連鎖的可能性ー袋田の滝》(大子町:袋田の滝)
「日本の滝百選」にも選ばれた袋田の滝には韓国のジョン・ヘリョンが作品を展示している。滝へと向かうトンネルの中に設置されたのは、曲線的に続くアクリルユニット。脈を打つように明滅と色彩の変化を繰り返す複雑な形状は、袋田の滝の水流や、それに続く滝川、また本流である久慈川の流れをモチーフとしており、往来する人たちを誘うように光を放つ。
なお、大子町エリアでは、ほかに奥久慈茶の里公園、旧浅川温泉、常陸大子駅前商店街などで展示が開催されている。常陸大子駅のほど近く、1916年築の古民家を改装したdaigo cafeでは、東京芸術大学の学生が手がけたランプなどの工芸作品を展示。趣ある雰囲気の中で休憩できる。
「現代の魔法使い」が生み出した、液体のディスプレイ 落合陽一《コロイドディスプレイ》(常陸大宮市:旧美和中学校)
最先端の技術を駆使して新しいメディア装置をつくり出すメディアアーティスト・落合陽一は、シャボン液の膜をディスプレイとして映像を映し出す《コロイドディスプレイ》を展示。本芸術祭のメインイメージにも使われているこの作品は、超音波を利用して表面を微細に振動させることで、液体への映像の投射を可能にしている。同会場にて、何もない場所から音声が聞こえてくる《幽体の囁き》と、モナド論から着想を得た、シャボン玉を使ったインスタレーション作品《モナドロジー》も発表している。
木々への讃歌? magma《WOODSTOCK》(常陸大宮市:旧美和中学校)
廃材や電動器具、木などを組み合わせることで、作品制作だけでなく、空間演出や家具まで手がける杉山純と宮澤謙一によるアーティストユニットmagma。今回は中学校という舞台を生かし、いくつかの作品を展示している。特に休憩スペースを兼ね備えた一室は、天井、壁面、床などが木で埋め尽くされた部屋となっており、スピーカーから音楽が流れる様子はまるで舞台美術のようだ。地元・美和の木材を使い、木の濃淡のみで作品にコントラストを与えている。
ミクロとマクロをつなぐ、折り鶴のDNA BCL《折り紙ミューテーション》(常陸太田市:旧常陸太田市自然休養村管理センター)
サイエンス・アート・デザインの領域を横断して活動する、ゲオアグ・トレメルと福原志保を中心とするアーティスティックリサーチ・フレームワーク、BCLによる作品。吊り下げられているのは、県北地域特産の和紙「西の内紙」でできた、一見普通の折り鶴たち。実は和紙には、DNA鎖を折り曲げて構造体を成形するテクノロジー「DNA折り紙」でつくられた「ミクロの折り鶴」が注入されている。伝統工芸と科学技術を結びつけてつくられた、折り鶴を「無数に含む」この作品には、平和の願いも込められているという。
街に差し込まれたピンクの窓 原高史《サインズ・オブ・メモリー2016:鯨ヶ丘のピンクの窓》(常陸太田市:鯨ヶ丘地域[梅津会館])
常陸太田市の梅津会館(郷土資料館本館)は、1936年に同市出身の実業家・梅津福次郎の寄付によって建てられたもの。この建物を含む、鯨ヶ丘地域に作品を展開したのが原高史だ。鯨ヶ丘に住む人々にインタビューを行い、そこから抽出した言葉を「サインズ オブ メモリー」として、ピンク色のパネルに落とし込んだ。パネルが建物の窓を覆い、人々の声が可視化されることで、鑑賞者は街自体に親近感を覚えることができるだろう。
白くて甘くて新しい「茨城県」 二パン・オラ二ウェー《イ/バ /ラ /キ》(常陸太田市:鯨ヶ丘地域[梅津会館])
原高史と同じ梅津会館の2階に、巨大な作品を設置したのがタイのニパン・オラニウェー。展示室に入ると目に飛び込んでくるのは、舞台のように照らされた真っ白で巨大な空間。しかし、よく目を凝らすとそこには地図が描かれているのがわかる。この地図は茨城県32市12町を独自に組み合わせたもので、そこには新たな茨城県が姿を見せている。また地図はベビーパウダーによって覆われており、展示室内に充満する甘い香りが、現実と虚構の入り混じった真っ白な世界をより幻想的なものとしている。
梅津会館ではほかに、かつて常陸太田市をおさめた佐竹家にちなみ、深澤孝史が《常陸佐竹市》と題したユーモアあふれる架空の市役所を設置している。訪れた人は毛虫をモチーフにしたオリジナルのアクセサリーや帽子を身につけて写真を撮り、市民証を発行できる。
豊かな自然の中で展開される「茨城県北芸術祭」。異なる専門分野を持つメンバーが集まり、協力して作品をつくり上げる「ハッカソン」プロジェクトや、科学技術分野の視点を取り入れた作品の多さも特徴だ。茨城県北を訪れ、新たに誕生した芸術祭の全貌を、ぜひ自身の目で確かめてほしい。