都市に現れたビオトープ テア・マキパー《ノアのバス》(日立市:日立シビックセンター)
日立駅前のシビックセンターに、一台の古びたバスが停まっている。このバスを「ビオトープ(生物生息空間)」に変容させたのがフィンランドのアーティスト、テア・マキパーだ。《ノアのバス》と名付けられたこの作品では、日立市に自生する多種多様な植物とともに、ウサギ、ロシアリクガメ、モルモット、セキセイインコやレースポーリッシュ(ニワトリの一種)などが生息しており、自然との共生とは何かを訴えかけている。
目を奪われる、ウランガラスの輝き 米谷健+ジュリア《クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会》(日立市:日立シビックセンター)
シビックセンターの地下に降りると、暗い空間に怪しく光るシャンデリアと出会うことができる。この緑色に輝くシャンデリアを構成するのは、人体に無害なウランガラス。かつて食器や日用雑貨などに使用されていたウランガラスは、核燃料にも使われるウランを極微量加えることで着色されている。米谷健+ジュリアはその性質を生かし、世界各国の原子力発電量に大きさが比例したシャンデリアをつくりだした。美しさとともに、批評性を感じさせる大作。
鮮やかに語りかけるライトボックス看板 中崎透《看板屋なかざき》(日立市:常陸多賀駅前商店街[多賀パルコ])
常陸多賀駅前商店街では、茨城県出身の中崎透が地元に根付いたインスタレーションを展開する。色とりどりのポップなライトボックス看板に書かれた「水府」や「美和」「金砂郷」とは、市町村合併によって失われたものを含む地名の数々。すべての看板を中崎自身が作成した。夜は色ガラス越しに光る看板たちは、土地の記憶を道行く人々に語りかける。
ニットに包まれた街 力石咲《ニット・インベーダー in 常陸多賀》(日立市:常陸多賀駅前商店街[旧銀行])
ニットクリエイターとして、公共空間にニットを使った作品を展開してきた力石咲。今回のプロジェクトでは、「常陸多賀駅前商店街全体をニットで包む」ことを試みている。街のあちこちに見られる、ニットで編みくるまれた街灯や街路樹は、ワークショップで市民とともに制作したもの。作品は会期中にも拡張を続けていく。銀行跡地では巨大な編み機を展示している。
パワースポットに「オーロラ」が出現 森山茜《杜の蜃気楼》(日立市:御岩神社)
常陸最古の霊山であり、樹齢500年の県指定天然記念物である「三本杉」が厳かに迎えてくれる御岩神社。ここでは繊細な支持体を使った森山茜の作品に注目したい。澄んだ空気の杉林の中に突如として現れる巨大インスタレーションは、20×20cmの「オーロラフィルム」6000枚で構成。山を吹き降ろす風がフィルムを揺らし、きらびやかな色彩を放っている。「御岩神社の歴史や生態系にスケール感を覚えて、直感的に展示場所を選んだ」と森山は語る。
また、境内にある斎神社では、岡村美紀が手がけた、県北地域をモチーフとした天井画《御岩山雲龍図》が展示されている。
チームラボが天心と出会った。 チームラボ(北茨城市:茨城県天心記念五浦美術館)
茨城県五浦に六角堂や邸宅を建て、活動の拠点とした近代日本画の立役者、岡倉天心。その天心を顕彰する茨城県天心記念五浦美術館では、チームラボの新旧8作品を見ることができる。「和の美学」をテーマにした今回は、お茶を点てると中に花が咲く茶室のインスタレーション《小きものの中にある無限の宇宙に咲く花々》や、鑑賞者の影が文字に触れると、その文字がビジュアルに変わる巨大作品《世界はこんなにもやさしく、うつくしい 》などを展示。
11×11メートルの空!? イリヤ&エミリア・カバコフ《落ちてきた空》(高萩市:高戸海岸[前浜])
日本の渚百選にも選ばれた高戸海岸に、突如として現れる青空。砂浜に突き刺さっている「空のかけら」は、架空の物語に基づいてつくられたものだ。イリヤ&エミリア・カバコフの代表作ともいえる《落ちてきた空》は、今回11年ぶりに再制作されて茨城県北芸術祭に登場した。「あくまで自然に砂浜に刺さっていること」。これがアーティストたちの狙いであり、砂浜に出現した青空は鑑賞者に新しい視点を与えてくれる。
後編では、常陸太田市、常陸大宮市、大子町の「山」エリアの作品を紹介する。