4月12日〜5月18日、⻑野県の北斎館で「略画 ― はずむ筆、おどる線 ―」展が開催される。
葛飾北斎は、70年にわたる長い画業のなかで、様々なジャンルに取り組んだが、とくに50歳代以降に力を注いだのが「絵手本」だ。絵手本とは、絵を学ぶ人々のために制作された参考書であり、北斎も複数の絵手本を作成した。そのなかでもっとも広く知られているのが『北斎漫画』であり、その制作においては、同時代の絵師・鍬形蕙斎の『略画式』という略画の絵⼿本が大きな影響を与えたとされる。
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「略画」とは、対象物のかたちを省略してとらえ、簡潔な筆線で表現する技法。北斎は、『北斎漫画』をはじめとする多くの絵手本において、この略画を積極的に使用した。例えば、略画のデザインが収録されている『今様櫛きん雛形』という櫛やキセルのデザイン集では、略画がたんなる「簡略な絵」ではなく、デザインとしての意匠的魅力を備え、当時の人々に受け入れられていたことがわかる。
本展では、館蔵の版本作品を中心に、北斎が描いた略画による人物や動物、草花のモチーフを紹介する。略画においては、細部を省略しつつも、対象の特徴や動きが失われることなく、いきいきとした印象を与える。展示される作品は、小さなモチーフが集まって1ページを構成し、賑やかで魅力的な世界をつくり出している。訪れた人々は、個々のモチーフをじっくりと楽しんだあと、全体の画面を眺めてその魅力を再確認することができるだろう。
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