2019.10.3

チェルフィッチュ×金氏徹平、ウィリアム・ケントリッジらが参加。まもなく開幕「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」の見どころは?

演劇・ダンスのみならず、美術や音楽などジャンルを越境した多様な表現を紹介してきた「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」の第10回が、「世界の響きーエコロジカルな時代へ」をテーマに開催。プログラムディレクター・橋本裕介が語るその見どころとは? 会期は10月5日〜27日。

グループ展「ケソン工業団地」 ©︎イ・ブロク『Robo Cafe』
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 舞台芸術の「創造」と「交流」の実験の場として、2010年にスタートした「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。「創造するフェスティバル」として、演劇・ダンスのみならず美術や音楽などを含め、従来のジャンルを越境した多様な表現を紹介してきた。

 その10回目が、「世界の響きーエコロジカルな時代へ」をテーマに開催される。今年は日本を含む世界の6つの地域からアーティストを招き、11の公式プログラムで構成。加えて51のフリンジプログラム(公募制)や作品と連動したシンポジウム、観劇後に観客が集うミーティングポイントなど、様々なイベントも行われる。会期は10月5日~27日。

ネリシウェ・ザバ 『Bang Bang Wo』 Photo by Candida Merwe

 昨年の「女性」というテーマの問題意識を引き継いだ、今回の「世界の響きーエコロジカルな時代へ」。これについて、プログラムディレクター・橋本裕介は次のようにコメントしている。「人間存在や理性を中心に置く考え方、そしてグローバル化の名の下に特定の主体に独占される私たちの生活、それらへの疑義を明晰に表出する作品たちとの出会いを用意します。そこでは、様々な主体が響き合う事象として、世界をとらえる新たな感覚を私たちにもたらすでしょう」。 

 「人間から切り離された対象物としての環境ではなく、自分たちをその一部として含みこむ世界への感覚を、いかにして覚醒させることができるのか」。今年のKYOTO EXPERIMENTではこうした問いを軸に、現実とフィクションの往還、アイデンティティの揺らぎや遷移をテーマとした作品が集結。その見どころを、橋本のコメントとともに紹介する。

 

人間のスケールを脱する演劇とは? チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』

チェルフィッチュ×金氏徹平 『消しゴム山』メインビジュアル ©︎Shota Yamauchi

 「いま・ここにいる人間のためだけではない演劇は可能か」。この問いから『消しゴム山』をつくり出すのは、岡田利規率いるチェルフィッチュと、アーティスト・金氏徹平だ。岡田は2017年、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市を訪れ、驚異的な速度でつくり変えられる風景を目の当たりにしたことをきっかけに本作の構想を開始。18年からチェルフィッチュが力を注ぐ「映像演劇」も取り入れながら、人間中心主義から逸脱する先に現れる風景を描き出す。

 「本作の問いは、別の言い方をすれば『いかに環境的であれるか』『いかにして抽象的な思考ができるか』ということではないでしょうか。チェルフィッチュがぶつける抽象性に加え、金氏がつくる脈絡のない物体たちが舞台に新しい文脈を与えます。人とものが等価になり、ものも登場人物となり、従来のものの意味が変化していくでしょう」。

 

深遠に共鳴する歌とドローイング。 ウィリアム・ケントリッジ『冬の旅』

ウィリアム・ケントリッジ 『冬の旅』(エクサン・プロヴァンス音楽祭(フランス、2014)での上演風景  ©P.Berger / artcomart.

 先日、第31回「高松宮殿下記念世界文化賞」絵画部門の受賞が発表されたウィリアム・ケントリッジは、「動くドローイング」と称される映像作品で知られる南アフリカ出身のアーティスト。フランツ・シューベルト『冬の旅』と自作のあいだに本質的な共振を見出したケントリッジは、ドローイングと歌、そしてピアノによって本作を構成。『冬の旅』のメランコリックな情景は南アフリカの乾いた風景とオーヴァーラップし、恋に破れ放浪する男の孤独と絶望が、アパルトヘイト下の黒人労働者の苦難とリンクする。

 「シューベルトの『冬の旅』は約200年前に作られた曲ですが、この舞台においては単なるロマン主義の音楽を超えて、現代に生きる人の孤独や寂しさ、現実の過酷さが立ち現れます。マティアス・ゲルネの深い声と響きあい、ドローイングもまた、もう一人の登場人物のように見えてくる。ただの背景ではないドローイングと人との関係性が楽しみな作品です」。

 

自身初となる劇場作品。 久門剛史『らせんの練習』

久門剛史『らせんの練習』 ©︎Tsuyoshi Hisakado 

 音や立体、光と陰によって詩的な状況を緻密に構成し、鑑賞者の身体感覚に働きかける作品を手がけてきたアーティストの久門剛史。今回、久門はロームシアター京都・サウスホールを舞台に、自身にとってかつてないスケールの空間と対峙する劇場作品を制作。音や光といった表現が劇場空間というスケールの振れ幅で使用されることで、久門作品に新たな局面をもたらすことが期待される。

 「目的を定めず気ままに採集したフィールドレコーディングによる音がある種のナラティブをつくります。オブジェクトの記号的な断片が空間の中に彫刻として重なり合い、繊細さと大胆さが共存する稀有な作品です。現実や虚構、自然と人工の対立概念が劇場空間という特質によって生かされる、閾値が広い範囲の作品になることでしょう」。

 

セクシャルマイノリティへの問いを拡張する。 サイレン・チョン・ウニョン『変則のファンタジー_韓国版』

サイレン・チョン・ウニョン『変則のファンタジー_韓国版』 ©︎Namsan Arts Center

 今年のヴェネチア・ビエンナーレ韓国館でも展示を行ったアーティスト、サイレン・チョン・ウニョン。ウニョンは、韓国女性のみが演者を務める大衆演劇「ヨソン・グック」の最盛期を生きた役者と観客のコミュニティに関わり、ジェンダーを越境して演じるという彼女たちの行為がいかに政治や歴史と接続されてきたか、10年以上にわたってリサーチと作品制作を続けてきた。そのいっぽうでは、日本の宝塚歌劇を含め、アジアの他の国に根付く女性演劇のリサーチも行っている。

 「セクシャルマイノリティへの問いを、単純なマイノリティの話で終わらせず、歴史的文脈と劇の構造をうまく使いながら広がりを持った作品です。出演するG-Voiceはオリジナル曲も作詞作曲する人気のゲイコーラスグループ。彼らは表現者であり、アクティビストでもある。表現活動と現実の活動とが地続きとなっています。過去に日本では『変則のファンタジー_日本版』を上演していますが、今回の韓国版では、歌舞伎の様式を備えた京都芸術劇場 春秋座で上演します。歌舞伎の様式も男性のみが演じるという芝居ですが、そういった要素も作品に織り込んでいくことになるでしょうし、京都だけの『変則のファンタジー』をお楽しみください」。

橋本裕介ポートレイト ©︎Lucille Reyboz

 こうした公式プログラムのほか、フェスティバル会期中に京都中に展開するフリンジ(フェスティバルのメインプログラムを取り巻いて行われる様々なイベント)の「オープンエントリー作品」では、51もの演劇、ダンス作品などが揃う。

 いよいよ開幕を間近に控え、前売り券完売や残席わずかのプログラムも目立つ今年のKYOTO EXPERIMENT。公式Twitterでは当日券情報も配信中のため、気になるプログラムはお見逃しのないよう早めの計画をおすすめしたい。