現実とインターネットの境界が希薄になり、「作品のオリジナル」も、絵画、彫刻などの実空間だけではなく、データとして情報空間にも存在しうる現代。クリエイションギャラリーG8で2月22日にスタートした「光るグラフィック展2」は、「オリジナル」はどこにあるのか、そして、現実空間と仮想空間のそれぞれに作品が置かれたとき、グラフィックはどのように存在するかを体験できる展覧会だ。
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同ギャラリーでは2014年2月に「光るグラフィック展」を開催、本展はその第2弾となる。「スクリーンに表示するデジタル作品とグラフィックのような印刷物は、一見すると断絶しているように見えているけど、志向するところはじつは変わらないのではないか? そのような思いから企画をスタートしました」と話すのは、企画メンバーのひとりであり、デザインチーム「Semitransparent Design」の代表である田中良治だ。
会場には、仮想空間、現実空間のそれぞれに存在する作品と、その境界にあるような作品の3種類が並んでいる。
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まず紹介するのは、原田郁の新作《GARDEN - WHITE CUBE(G8) #001》だ。「SketchUp」という3DCGのソフトウェアを使い、家やオブジェのある架空の世界をつくり、そこで疑似体験した風景を絵画として描き続ける原田。本展で展示する新作は、会場であるクリエイションギャラリーG8の様子をモチーフにしているため、照らし合わせるように鑑賞することをおすすめしたい。
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そして、仮想空間の礎でもあるコンピューターや周辺器具が引き起こすエラーに着目したのは、写真家の小山泰介だ。生物学や自然環境を学んだ経験を背景に、ポスト・デジタル時代におけるイメージ制作の可能性を探る小山は、破損したハードディスクをモチーフとした《REVIVE #20》を出品。データ回復に至らずバグを起こすハードディスクが出力するイメージを写真にとらえている。
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こうした作品と並置されるのが、グラフィックデザイナーの佐藤晃一や葛西薫によるグラフィックワークだ。葛西による《泣き虫ピエロ》は、3Dをベースとしたグラフィックの映像作品であり、本作を含む多くの出品作は、本展最終章である「種明かし」を見ることができる。それは、「同じ作品を実空間と仮想空間の両方で見ることができる」という本展の特徴ゆえであり、そのことにも留意しながら作品を鑑賞してほしい。
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また、本会場で異彩を放っているのが、「Wieden+Kennedy Tokyo」でエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターを務める長谷川踏太の作品《枯れ葉踏みとポテトチップス》だ。この作品では、幼少期の長谷川が思いついた「ポテトチップスを一番おいしく感じられる食べ方」が再現されているという。目の前にポテトチップスが浮かび、足元にはザクザクと乾いた音を立てる枯葉が敷き詰められているなど、五感を使って体感する本作は、会期中15:00〜16:00の1時間限定で、作品の中で実際にポテトチップスを食べることができる。
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2部屋を使って展開する本展。奥の部屋に歩みを進めると、デザイン集団「groovisions」の着せ替えキャラクター「Chappie(チャッピー)」が来場者を迎える。髪型、服装、性別を変幻自在にできるキャラクターであり、マネキンとなったチャッピーが纏うのは、PRADA、HOKA ONE ONEといったアイテム。スタイリストの長谷川昭雄が特別にスタイリングを行なっている。
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またこのスペースでは、クリエイションギャラリーG8を設立以来、外から支え続けてきた人物のひとりでもあるグラフィック・デザイナー、亀倉雄策による「大阪万博ポスター」を展示。ポスター全体に光がみなぎるこのグラフィックは、1970年の「日本万国博覧会」に向けての人々の高揚も伝えるような作品になっている。
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そのほかに、テクノロジーと身の回りの素材を生かして映像、彫刻、紙媒体やデジタルメディアに複雑な構造を生み出すアーティストのジョー・ハミルトンによる《Regular Division》、作品や展示を成立させるために用いるがゆえに周縁的とされる技術・制度的仕組みに着目した作品を手がけるアーティストの永田康祐による《inbetween》、そして、目の前にあるキーボードを使い、実際にタイポグラフィに打ち込むことのできる、グラフィック・デザイナーの鈴木哲生による《文字のスト》といった作品が並ぶ。
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タイピングをすると、一見すると意味を把握することのできないグラフィックが表示される《文字のスト》。しかし、空間再奥にあり、部屋の入り口には「バーチャル」と書かれた谷口暁彦の作品《まちぼうけ》の中で、実際に何が書かれているのかを知ることができる。
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コントローラーを操作しながら、ゲームのようにギャラリー会場を周遊できる《まちぼうけ》。その画面の中でもとくに注目してほしいのは、原田郁に加え、葛西薫、大島智子らによる作品の、現実空間とは異なる見え方だ。また、コントローラーを使って「撮影」した場面は、会場入口1つ目の部屋に設置されたモニターに映し出される仕組みになっている。
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アーティスト、グラフィック・デザイナー、写真家など、多彩なジャンルの人々がともに作品を展示している本展。そこには、「メディアの特性を考慮しながら緻密に設計された作品も、ひとつのビジュアルが持つインパクトが様々なメディアを軽々と通貫してしまうような作品も、両方が同時に存在している状態が理想的な多様さ」だと考える企画者たちの思いが反映されている。
リアルとバーチャル、RGBとCMYK、人間と機械といった様々な対立項を忘れて、その自由な往還を体感してほしい。