まずは韓国の大手ギャラリーのプレゼンテーションを見ていきたい。ソウルのギャラリー街として知られるサガンドン(司諫洞)で50年以上にわたり韓国の美術を牽引してきたギャラリー・ヒュンダイ。昨年はライアン・ガンダーの大規模なプレゼンテーションで話題を集めたが、今年は一転してイ・ガンソ(李康昭)、チョン・サンファ(鄭相和)、イ・スンテク(李升澤)、ジョン・パイといった単色画をはじめとする1930〜40年代生まれの大御所作家を展示した。
韓国美術のアイデンティティに立ち返るような動きは、同じく80年代よりソウルで活動をしてきた老舗、PYO GALLERYも同様だった。パク・ソボ(朴栖甫)とリ・ウファン(李禹煥)という単色画の確立に貢献した2作家それぞれのビューイングルームを構築し、両作家の個性を際立たせていた。
また、昨年はウーゴ・ロンディノーネによる個展形式のプレゼンテーションを展開した老舗のクジェギャラリーは、韓国の女性彫刻家の草分けである金允信(キム・ユンシン)の立体と平面作品を展示した。
このように韓国国内の大手ギャラリーが自国の大御所を積極的に紹介する傾向は、やはり「Frieze Seoul」との差異化を目指したものといえるだろう。韓国の重要作家を海外へプレゼンテーションするという、Kiaf SEOULの原点に立ち戻ったと評価できる。
韓国の若手から中堅作家の紹介に積極的なのもKiaf SEOULの特徴だ。「Kiaf Highlights」と題し、「新しい発見と新鮮な出会い」 をテーマに10人の新進および中堅アーティストにハイライトを当てている。選ばれた作家の所属ギャラリーのネームプレートの下には「HIGHLIGHTS」のタグがつけられており、会場を回るときに注目すべきポイントとなっている。以下にとくに注目の3名を紹介したい。
This Weekend Roomのチョイ・ジウォンは、質感をあますことなく表現した磁器人形をモチーフとする作家。人形を物語を感じられる背景と巧みな構図で組み合わせることで、絵画内に複雑な文脈を発生させている。
STEVE TURNERのペイジ・ジヨン・ムーンはアメリカを中心に活動するアーティスト。自身が記憶に留めておきたい瞬間を、乾いた明るい色彩で生き生きと描く。対象の細部にいたる描写に、作家自身の物語が仮託されている。
ARARIO GALLERYのカン・チョルギュの風景画は、深い内省によりかたちづくられた、自己の分身ともいえる景色を描いているのだという。フルタイムで働きながら、画面と向き合ってきたというこの作家の構成力は目を見張るものがある。